経営には突然何が起こってくるかわからない

事業内容

A社はサービス業としての「人的集約サービス」を主として請負業務システム企画・開発を主な業務としています。

関与時の状況

A社主力サービスの請負高約60パーセントを占める「大手S社」の請負業務を主軸にしてきたA社は、突然S社より呼出をうけます。

  • S社は来期より大手Y社と合併すること
  • 合併後はY社のシステムへ順次移行すること。
  • 現在のA社のシステム開発及び業務の委託は、今後一年をめどに減少させ最終的に解約したいこと。

A社にとって約60パーセントの売上が現実に減額していくとは、存亡の危機です。

私は、毎日のように夜にA社に伺いました。
(昼間はアルバイト・パートの方々が80名ほど業務をおこなっており、業務の内容上、プライバシー保護は厳重にまもられています。)
そのため役員だけになる夜に、「今後どうしたらよいか?」と話し合いを続けていきました。

分析

  • 長年かけての、システムへの投資と開発、及びシステムの構築には簡単には他のシステムへの移行は難しい。
  • 移行には時間と能力が必要とされるはず
  • アルバイト・パート以外のすべての従業員は、そのシステムの開発構築に携わっており、彼らがいなければS社が新システムへ移行するにも、その間の業務に相当の支障が出ること。

このことから、従業員全員の退職勧告を行うこと。社会保険・退職金共済・等々の事務処理を進めること。を前提に
S社に当方A社の条件を提示しました。

  1. システムの移行には当A社の社員の能力と力量が必要であること
  2. 当A社の社員全員の再就職を嘆願
  3. 以上の条件を受け入れて欲しいこと。

S社にこの条件は受理されました。

【対策】徹底した「コスト削減」と新たな売上の確保

しかしこれからがさらなる苦難であることは、社長他役員と会議を通じ認識は一致していました。
コストを削減していくということは、この状態では必要不可欠であり、もっとも細部にわたり検討実行していかなければいけないことです。

  • 役員報酬は60%減額
  • その他固定費はすべて見直し
    • 本社事務所の賃貸契約を解約
    • システム開発・作業ルームとして使用していた一カ所のみにすべてを集約
  • 不採算事業から撤退・停止
    • システムに関する出版等々の印刷及び製本事業からの全面撤退
    • これに伴い、印刷・製本設備機械を売却除去処分
    • 在庫は売却可能なモノをすべて売却処分しました。
    • 不採算事業に関わる外注委託先とは発注を停止

これらを実行していくことは、感情的には言葉に言い表せないほどの苦痛を伴うものであることを、あらためて実感しました。

やはり、コスト削減は後ろ向きの経営手法であることは間違いありません。明らかに未来への発展へのモチベーションは心情的に減退していました。

「徹底したコスト削減」や「業務集約」により、A社の事業は、人的集約サービスの請負及び、システムの開発に特化していくことになります。

追い詰められたのは、やはり今後の売上の確保でした。
現状の資金が続く間に、新たなシステム開発の受託先を開拓していくしか手はありません。

全国の主要都市及び地方においてA社のサービスを必要とされるであろうとおもわれるすべてをターゲットに過去の実績を訴え、歩けるだけ歩いて営業をかけていくしかありません。
現状の得意先様からの情報を足がかりに一つ一つ、営業に回って歩いて行くことを実践していきます。

利益率減少を極力最小限に

ここで、最も需要であったのが、利益率減少を極力最小限に抑えるということでした。
A社の限界利益率は55%を超えていました。これがA社の経営基盤でした。

どれほど苦労して、営業受託をしてきても、限界利益率が40%を切ってしまっては、いかに減額減少を実行してきたとはいえ、その固定費をまかなうことが出来なくなります。

また、たえずシステム開発へのソフトウェア導入とメンテナンスをし続けていかなくては、特化した本業が立ちゆかなくなってしまいます。
この点は絶えず経営陣との会議での重要な問題でした。

いずれにしても、15人居た従業員の方々が全員居なくなり、4人の役員のみで上記の事業活動を行う決意を、いつも会議では鼓舞していました。

1年後A社は売上高は前年度対比65%に落ち込みました。
しかし、限界利益率は46%と40%を超えていました。
固定費は前年度対比52%に押さえられていました。
予想よりは健闘したと心から思います。
なんとか、金融機関からの借入金をおこなうことなく、この厳しい一年をのりきる事が出来ました

ただ、売上はそう簡単には継続的に維持させるものではありません。

現在では

あの得意先からの合併から3年、現在のA社の営業努力は当然継続して行っています。
しかし、業界の再編は地方も含めて加速度的に進んできています。
以前にも増して厳しさは募るばかりです。
個人情報保護法、他の情報流失のセキュリティの強化、それに伴うシステムの開発コストも増加してきます。しかしこれに投資していかなければ、新たな仕事に結びついていかないことは確かです。もっとも重要な原価といってもよいでしょう。

3年前に退職をよきなく、退社して頂いた社員の方を少しでも再雇用していきたい。
こう当時の会議で苦渋の決断をした事への、唯一の心の支えとして役員の方々が目標にしていたことが現在実行されつつあります。

まだ全員は無理ですが、4人の再雇用を実現しています。

担当税理士からのコメント

「経営には突然何が起こってくるかわからない」を実感した3年前。
社長と3人の役員の方々の人しれない努力が今も続きます。そして、我々の存在が少しでもお役に立ってきたことを実感するとともに、これからのA社の発展にますます「力になれる存在」となるよう日々精進を続けてまいります。