実体を把握して舵をきる

事業内容

C社は40年以上続く建設業です。社員は20名弱と小規模ながら、大手建設会社の下請けとして、かつては大規模な公共事業にも参画してきました。

しかし、建設業は景気によって業績が大きく左右します。C社もリーマンショック以降、大幅な受注減により業績が悪化していきました。

関与時の状況

私たちが関与を始めたのは今から5年前。建設業は、いわゆる「どんぶり勘定」が多々ある世界です。その時C社は貸し倒れが次々と発生し、資金繰りが立ち行かなくなっていました。そんな切羽詰まった状態から、C社との関係がスタートしたのです。

分析:会計と現実のカイリの発見

まず私たちは社長にインタビューを行い、事業内容の確認と財産内容の精査を行いました。すると、儲かっていない案件にも多数手を出していることがわかったのです。たとえば、売上2,000万円の仕事に対し、人件費外注費などのコストが2,200万円かかっている事例もありました。これでは儲けが出るはずもありません。

 さらに、現金勘定を見てみると、帳簿上は1,000万円の残高があるにもかかわらず、実際の残高は、120万円でした。現金勘定のズレにはさまざまな要因が考えられますが、そのズレの説明を明確にできない企業が資金難に陥るのも無理はありません。

 社長は決して数字に弱い人ではありません。一件一件の案件が儲かっているかどうか、頭の中では概ね把握されているつもりでした。しかし、複数の現場にまたがる外注費の存在や、一度値引きした工事の値引き分を次回工事で取り戻すという取引など、頭の中だけでは把握しきれない複雑な調整が生じていることが少なからずありました。さらに、本来の業務をこなしながら会計まで担当していたので、物理的に無理が生じていたとも考えられます。

対策:法的整理か自主再建か

会社は待ったなしの状態。月に3~4回は社長とお会いして、改善点を指摘させていただきました。三ヶ月の検討の結果、自主再建は難しいと判断し「法的整理」を社長に提案することにしたのです。

しかし、社長の考えは違いました。

「うちにも下請けがいる、法的整理となればその下請けに不義理をはたらくことになる。そして私自身のプライドの問題もある。この仕事を続けていくためにも、それだけは避けたい」

 社長のプライドは非常に大切なものです。自主再建を目指したいという意思は尊重すべきです。我々は経営者ではありません。自主再建のために必要な「儲け続ける」ことの困難と、法的整理の存在を十分に理解した上で社長が選択をされれば、その達成のためにご協力できることを考える立場です。これまでの経営の中でなにをどう変えていけば利益を確実なものにできるかを社長と共に検討し、銀行交渉を行うことにしました。社長は銀行に今後の事業展開を示し、月に数十万円もあった返済を4万円に減額してもらいました。

 そして、これは会計の基本テクニックになりますが、「発生主義」を取り入れることにしました。代金回収時に売上を認識するのではなく、請求した時点で売上、請求された時点で経費を認識します。こうすることで、その1カ月で本当に儲かっていたのかどうか、実態を掴むことができるのです。その他さまざまなご提案をさせていただきました。

現在では:会議でアタマを整理する

関与から5年が経ち、C社は年間1,000万円を超える税引前利益を生むようになりました。現在も社長とは、毎月1回、早朝に会議を行っています。こちらから経過報告をするだけでなく、社長には今抱えている悩みを自由に話してもらいます。

 実務面でのアドバイスはできませんが、社長は話をすることで、問題が頭の中で整理できるというメリットがあります。毎月の会議は私たちにとっても、社長にとっても非常に有意義なものとなっています。

担当税理士からのコメント

私たちは関与先の損益計算書を作って報告します。しかし、それがすべてではありません。社長が欲しい情報、使える情報はすべて提供します。その情報や会計の知識を社長の武器にして欲しいと考えているからです。

社長がその武器によって強くなることで、成果は必ず現れます。そのためにも、毎回「会って話す」ことが一番大切だと私たちは考えています。今後もそのスタンスを守り、関与を続けていきます。