マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

『人の考えは百人百様、千人千様。損得勘定にとらわれすぎてはならない』

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第3号] 『人の考えは百人百様、千人千様。損得勘定にとらわれすぎてはならない』

2017年8月16日 配信
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こんにちは、マエサワ税理士法人
専務の前沢寿博です。

本日で盆明けとなりますが、皆様いかがお過ごしでしたか。
お休みを取られた方も、お仕事で忙しかった方も様々でしょうが、残暑に負けず8月を乗り切りましょう。

我々の属する会計業界では、ちょうど税理士試験明けの今頃に採用活動を行います。
今年も沢山の求職者の方とお話しする機会を頂きましたが、そのとき共通して同じ質問をします。

「あなたが描く職業会計人像とは?」

専門的・プロフェッショナルな税理士を目指している方、コンサル分野まで幅広く夢を描く方、身内に会計人がいて強いイメージを築いていらっしゃる方、本当に百人百様、千人千様で、目指す姿も、考え方も様々です。

我々の顧問先様である経営者の皆様も、百人百様、千人千様です。
私などの想像をはるかに上回る考え方をされる社長もたくさんおられます。

まさにこれが「人」なのだと思います。
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マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の3
『人の考えは百人百様、千人千様。損得勘定にとらわれすぎてはならない』

「人はそれぞれ考え方が異なる」

こうした言葉を読めば、誰しもその通りだと納得するだろう。
しかし、いざ意見を言ったり言われたりすると、途端に自己の主張を絶対に正しいと思ってしまう。

こと、会計上の損得を取り扱う我々は、その考えにとらわれがちだ。
お客様のためにと力を尽くすほど、主張が受け入れられないことも増える。
そんな時こそ「今、この瞬間、お客様にとって大事なものは何か」を慮る心と頭の力を、常日頃から養っていかなければならない。
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会計上の損得判断は必ずしも経営判断と一致しない

とある顧問先様に月次監査で伺った時のお話です。

現在、その顧問先様は初代社長から息子さんたる常務へ経営のバトンタッチをしている最中です。
日々の経営、運営についてはほぼバトンタッチは終わっており、残す懸案は展開しているグループ会社の社長所有の株式承継だけとなっています。

この顧問先様は社長と常務の経営才覚のおかげで、ずっと黒字を継続しています。
このこと自体は会社経営の面からは大変望ましいことですが、事業承継のための社長から常務への株式の承継ということで考えると、「会社の株式評価額が上昇し続けていて、株式の承継コストが増え続けている」ということでもあります。

非上場会社の株式評価は相続税法に基づく評価方法で評価していく訳ですが、基本的には純資産が増加している(つまり、利益が出ている)と株式の評価額は上昇していきます。
さらに、この会社は来期以降も利益が出る見込みなので、株式の評価額がますます高くなっていくことが予想されます。

私は「早めに株式を社長から常務へ承継しなければ」と思い、常務にそのご提案を行いました。
すると常務は「なるほど、それはその通りだね」とおっしゃり、早速、株式評価の依頼を受けました。

早速、私の方で株式評価を行い、社長が所有している株式を常務に譲渡した場合の社長の株式譲渡益に対する課税額のシミュレーション等々、を行い翌月、月次監査で会社に伺いました。

そして、いざシミュレーション結果を常務とお話しようとしたとき、常務から「やはり、先月の提案は一時棚上げにしておくよ」と言われてしまったのです。

私は一刻も早く、株式の承継をすべきだと思っておりましたので「なぜ、このタイミングで株式の承継をしないのですか。株式の評価額が高くなってしまいますよ」と聞き返しました。

すると常務は、「社長はまだ経営に関与していたいと感じていると思うんだ。ここで社長の株式を承継するのは簡単だけど、社長の気持ちを考えると、今のタイミングは時期尚早なんだよね」とおっしゃったのです。

経営には多くの「人」とそれぞれの思惑が関わる

私が常務に申し上げたことは、税金の観点から見れば、間違ってはいないと思います。

しかし常務からすれば、税金の話は経営のほんの一部にすぎず、このままにしておくことで株式承継に係る資金が増加してしまうことや税金が増加してしまう点よりも、現社長の現在のお気持ちこそ重視すべきと判断されたのでしょう。

このように、税金面・資金面の損得だけでは判断しきれない事項は数多く存在します。
それは時と場合によっては最大限尊重されるべき経営判断と言えるかもしれません。

我々は経済界に生きているので、経済合理性に基づいて行動しなければならないですが、我々は機械ではなく、あくまで「人」なので感情合理性も考慮しなければなりません。
そのあたりが経営の難しいところでもあり、おもしろいところでもあるのだと思います。

ただ我々が職業会計人である以上、予測される事業承継のコスト増大について、経営者の方々にお伝えすることは我々の責務です。
我々はクライアントに、考え得る将来の予測と選択肢をお伝えし続けなければなりません。
もちろん、それらの可能性、選択肢を考慮した上で、最終的な判断をされるのは、経営者の方々ですが。

意見の違いこそ、仕事の面白さ

「人はそれぞれ考え方が違うんだ、また同じ人であっても考えが変わることもある」と常に頭においておけば、自分の提案と異なる意見を言われても、そこで「否定された」などと考えずに「なるほど、そういう考え方もあるな」と受け止めることができます。

また、人の考え方がそれぞれ違うからこそ、我々会計人も興味深い仕事ができるのだと思うのです。

いろいろ試行錯誤した上で、経営者に提案してみると「これはいいよね。是非、実行してみよう」と実際に実行して頂き、うまく出口まで導けたときは本当に充実感がいっぱいになります。

これぞ仕事冥利に尽きるというものです。

人はそれぞれ考え方が違うから衝突してしまうこともありますが、違うからこそ互いの考え方を尊重しなければ、良い仕事はなかなかできないのかもしれません。

本日の話題は、我々会計人と経営者の皆様とのコミュニケーションに関する考え方『人の考えは百人百様、千人千様。損得勘定にとらわれすぎてはならない。』でした。

今回も長文をお読み頂きましてありがとうございました。