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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」
[第60号] 適正な価格とは?
2019年10月23日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の60】
『良い商品であることを理解してもらう』
資本主義において、その商品の価値を決めるのは金を払う側である。
売り手は自らの思う価値にて値付けできるが、価格以上の価値を見出せねばいずれ淘汰される。
反対に価格以上の価値を見出せれば、こぞって買われ、値上げも厭われない。
価格設定とはかように難しくもあるが、重要なのは自分が思う顧客目線ではなく、顧客が思う顧客目線であるということだ。
千差万別の顧客を想定すれば、適正価格はとても定まるものではない。
価値を理解してくれる顧客を顧客とすべきであることにも留意して頂きたい。
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人の好い日本人!?
最近読んだ雑誌(日経ビジネス)にこんな記事がありました。要約して書くと、
◎紳士服向け毛織物の産地、尾州(愛知県西部)のある会社は複雑な生地を製作している。その顧客はフランスの「エルメス」や「ルイ・ヴィトン」といった高級ブランドである。
◎ブランド側は頂点のごく一部の商品にだけ尾州の生地を使用する。ボリュームゾーンの商品には中国の生地を使う。尾州の生地はその複雑な製造工程から、大量生産は不可能である。しかもコストがかかる。
◎それでも尾州の会社は「自社の技術はすばらしい」と満足している。一方、中国は定番の生地をたくさん作る。生産が安定して手間がかからないから、利益率は低くても利益額は大きい。
この話も人が好い日本人の典型的な話でしょう。私も日本人ですから、こういう記事を読むと日本人としての美徳のようなものを感じます。今、ラグビーのワールドカップが開催されておりますが、改めて日本人の礼儀正しさが世界から注目されております。それを誇りに思い、行動規範として自分もこうありたいと思います。
しかし、資本主義から上記記事を咀嚼すると、必ずしも美談で留めるわけにはいきません。おそらく「エルメス」も「ルイ・ヴィトン」も尾州の会社の何十倍、何百倍もの利益を得ているでしょう。もちろん、「エルメス」と「ルイ・ヴィトン」はメーカーで、尾州の会社は原材料メーカーになるので単純比較はできませんが、それでも製品への貢献度からすれば、尾州の会社は今以上に利益をとってもよいのではないしょうか。
なぜなら、「エルメス」も「ルイ・ヴィトン」も尾州の会社の生地がなければ、同レベルの生地を作ることのできる他の会社を探さなくてはならない。しかしフランスにある企業がわざわざ日本にまで来てたどり着いた生地なはずです。そうそう代わりの生地が見つかるとも思えません。
資本主義という考え方からすれば、その生地の適正価格というものはおそらくずっと高いものでしょう。そのことを評して上記記事では「日本人は人が好すぎる」とまとめています。
商品の良い・悪いは顧客目線で考えるべき
また、次のような話もありました。
◎子供を教育する際、中国では『人に騙されるな』と教え、韓国では『人に負けるな』と教える。日本では『人に迷惑をかけるな』と言う。見方を変えれば高い技術力そして勤勉さ、誠実さを生かせば必ず日本を再生できる。
私は言い得て妙だと思いました。どの考えも正しいとか誤っているということではないと思います。あくまで考え方なので正解不正解はありません。しかしそれぞれの国民性を考える時、なるほどと思わせる話です。
それと共に考えるのは、日本人は、素晴らしい技術を駆使して作った製品だから、素晴らしい製品に違いない、と考えがちだということです。
一昔前にSONYのウォークマンの進化型とアップルのi-Pod(i-Padではありません)が世の中に登場した時、SONYのある社員は「アップルのi-Podは技術的にはSONYの製品に劣る。だからSONYの方がよい製品だ」と語ったそうです。結果はご存じのとおり、i-Podが世の中を席巻しました。
消費者は必ずしも「最も優れた技術」にお金を払うとは限りません。消費者が欲しいのは、価格に対して付加価値の高いもの、価格が高くともそれを上回る付加価値のあるものです。便利だ、操作が簡単だ、あるいは使用時の高揚感や所有する満足度、これらのほうが消費者に受け入れられる鍵となるケースが多くあります。最新技術が盛り込まれていてもそれが消費者にとっての高い付加価値に転嫁されていなければ何の意味もない訳です。
マエサワ税理士法人でも儲けるためには「①良い商品ですか」「②良いお客様ですか」「③良い商品と良いお客様をよく理解している従業員ですか」ということを考えてください、と常に申し上げております。
この「良い商品ですか」は会社から見た良い商品ではありません。あくまでお金を払って買うお客様の立場から見た「良い商品ですか」ということです。ここを間違えてしまうと、自分たちはこんなに頑張っているのにどうして売れないのかというおかしな話になってしまいます。
商売をする上で最大限に意識すべきは、お金を払っている人、すなわちお客様です。自分たちが良い商品を作ろうと努力をするのは当たり前ですが、良い商品とはお客様にとって価値あるものであって、自分たちにとって価値があるものではありません。
これからの経営者に必要なものは
日本はこの30年間経済成長がほとんどできませんでした。その間に中国は日本の倍以上のGDPになりました。世界における日本の経済的影響力は確実に失われつつあります。それは様々な国から様々な形でプレッシャーを受けるようになったことにも現れています。
今一度、日本という国が輝きを取り戻すためにはやはり我々が資本主義に生きているということを再認識する必要があります。「良い商品か、良いお客様か」を(時には世界的な視野で)再定義する必要もあるでしょう。
そして、我々一人一人が開拓者精神というか、創業者精神というか、チャレンジ精神を発揮して、様々なことに挑戦していかなければならないのではないかと感じています。そうでなければますます世界の潮流から離れてしまい、それこそガラパゴスになってしまう気がします。そういった活力のみなぎる経営者の方々と、我々は一緒に成長していきたいと考えております。
今回も長文にお付き合い頂きましてありがとうございました。