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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」
[第84号] 未来を考える難しさ
2020年9月23日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の84】
『相続以前に大事にすべきこと』
相続対策、相続税対策、世には書籍や講釈が様々溢れている。
ではそれに則れば簡単にいくか?といえばそうはいかない。
手続きやモノカネ以前に感情が渦巻き本音がぶつかり合うのが相続である。
本来親はこれらの対策をしても特にメリットがない。
親にとっては自分の死後まで気を遣い、ましてや金銭的に得るものはなく。
ただ子供達のためにという行為であり、「やって当たり前」という考えはすべきではないだろう。
一つ言えるのは、節税よりは生活が優先、もっと言えば心情が優先であろうということだ。
誰にどのように継ぐか、当事者が互いの心情をよく話し合い、脱争族への道を歩んで頂きたい。
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ある管財会社の顧問先様が、所有している不動産を売却し、解散・清算をすることになりました。もともとは管財会社とは別に本業を営んでいる会社があり、そちらの会社と管財会社ともに現社長のご主人が社長をされていました。このご主人がお亡くなりになり、奥様が管財会社の社長に就任されています。
その管財会社を解散させるための会議をしている中でのお話なのですが、社長から「今話していることから少し外れてしまうのですが、ご相談したいことがあります」とお話がありました。
未来は足し算引き算ではない
ご主人が亡くなられ、配偶者である奥様が財産の一部を相続されました。現預金の割合が大きいようです。ご相談の内容は「自分が必要と考えている現預金以外は、子供に何らかの形で贈与などしていきたいと考えています。先生はどうお考えですか?」というものでした。
相続財産の大半が現預金であれば、万が一本人が急逝し相続税が発生したとしても、引き継いだ現預金で賄えますから相続人の持ち出しはありません。どうしても贈与したいとなれば暦年贈与がひとつの選択肢となるでしょう。年間110万円までの非課税枠を利用しつつ多少贈与税を納税しながらお子様やお孫さんへ贈与していきます。また、教育資金贈与であれば1500万円まで非課税枠(令和3年3月31日まで)があります。住宅取得資金贈与にも最大3000万円までの非課税枠(令和3年12月31日まで)がございます。
この話をしたときに社長は「別の税理士に同じ質問をしたら逆の回答をされた」とびっくりされていました。私は社長にその税理士はどんな回答だったのかを尋ねました。その税理士は「まず社長がなくなるまでにどれくらいの資金が必要か計算してみてください。そうすれば残額が出てくるはずです。その残額については贈与していけばいいのではないでしょうか」と言ってきたので、社長はその話を受けて自分がどれだけ資金が必要か計算し、贈与できる額を算出したそうです。
お互いの心情を慮ること
相続がいつ起きるかは誰にもわかりません。極端に言えば、明日かもしれないし30年後かもしれません。いつ起きるかわからないのなら、社長がご主人から受け継いだ財産ですから、必要な時に必要なだけ使い、それでも残ったときにはその残ったお金の一部は相続税として納付してもらうのもひとつではないでしょうか。もちろん、暦年贈与を上手に利用しながらお子様やお孫さんへ適宜贈与していくのもよいと思います。
しかし先に自分が使う予定以外の財産をお子様やお孫さんに贈与してしまえば、仮に予定と違った状況になった時にはお子様方を頼りにするしかありません。もちろん、財産の贈与を受けたお子様方ですから多くの場合は助けてもらえるでしょう。しかし、「助けてもらう」に違和感を感じる人もいるのではないでしょうか。もともとは贈与した側だったわけですから。こうした感情面の問題についてもさまざまな可能性を考慮した上で贈与を実行した方がよい場合があります。
また、よく聞く話ですが、普段持ち慣れていない多額のお金が手に入るとそれまで真面目だった人が、人が変わったかのように湯水のごとくお金を遣うようになってしまうこともあるようです。
ここで述べた話はあくまで今回のケースに対しての提案であって、相続税の節税を優先させるのか、財産を相続させる人を誰にするのかを優先させるのか、今回のように余剰財産を支出の多い子供世代に資金を移していくことを優先させるか等々で答えは全く違うものになるはずです。
いわゆる「正しい」答えなど誰にもわかりません。強いて言えば、相続後20年30年と経った時に相続に関わった方々が争いを起こしていなければその相続は「うまくいった」と言えそうです。親が健在な間は子供同士も仲が良いことが多いですが、親がいなくなるとそうでなくなる場合も世の中にはあるようです。財産を残す側が気を遣うのもおかしな話ですが、こればかりは相続が争族にならないようにするために財産を残される方々が考えたほうが良いことなのかもしれません。
どのように相続していくかはそれぞれ皆様で決めて頂くことになりますが、我々も税務だけにとらわれることなく広い視野で提案をさせて頂きます。