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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」
[第107号] 粗利益率を強く意識する
2021年8月11日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の107】
『できない当たり前の払拭』
経営者と粗利益の話をしていると、その多くの方が「値上げは無理だ」「原価は下がらない」「粗利益率はこれが普通だ」とそれぞれの”当たり前”を口にされる。たしかにこの3つの向上はどれも簡単なことではないだろう。しかしそこから目を逸らし、安易な安売りに走ってはいないだろうか。
”当たり前”の意識改革はまず社長から。そこから幹部、社員へと一丸となり、儲けられる会社へと転換を進めて頂きたい。
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私は毎月30社近くの顧問先社長にお会いしております。細かい課題は会社ごとに、社長ごとに違えど共通していることは、自社の商品・製品・サービスをいかに「高い価格」で、そしてできるだけ「多くのユーザーに購入」してもらえるかを常に検討されている、ということです。
初期的には売上、その先は粗利益率にも目を向ける
人材派遣・紹介業をされている会社では、派遣業は毎月一定額の売上を期待できる商品です。自社開発の人材マッチングシステムもあるのですが、派遣する人材の人件費が原価となりますので、粗利益率は20%内外です。もうひとつの人材紹介業はいわゆる一本釣りですので手間はかかりますが、成約に持っていければ原価はかからないので粗利益率100%です。
この会社の営業会議を伺っていると、予算に対する実績売上が未達の際に「なんとしても来月は予算を上回る実績売上を上げなければ」という意気込みは感じられるのですが、派遣業と紹介業では圧倒的に粗利益率が異なるという視点が希薄に感じられる場面がありました。
また鮮魚の大卸の会社では、旧市場法により「粗利益率は5%」というのが業界の常識となっておりそのような縛りが事実上なくなってからも「5%以上の利益率を取るのはとんでもないことだ」という認識がなかなか払拭されない、と苦心されている経営者もいらっしゃいました。
粗利益率と売上はどちらが重要かといわれればやはり売上のほうが重要のように思います。売上がある程度なければ、いくら粗利益率が高いとしても、世の中に影響力を発揮することはできないでしょう。
なにより売上は社長自身が創るものであり、売上を創れなければ事業を継続することができません。ですから売上を伸ばすことは事業の成長のためには必須だと思います。ただこれからの日本で生き残っていくためには売上を伸ばすことと同じくらい粗利益率を落とさないこと、上げていくことを意識していく必要があるのです。
今の粗利益率が当たり前という意識を捨てるべき
これはどういった業種・業態でもあてはまると思います。もちろん様々な業種・業態があり、どうしても低価格で大量に売っていかなければならないような事業をされている会社も当然ございます。
そのような会社で他社が100円で売っているものを何も変えずに110円にしたところで誰にも購入してもらえなくなります。粗利益率を上げるには100円で売っているものを110円で売るのもひとつですが、原価が50円かかっているのを40円にするのもひとつです。同じ性能のものを原価を下げても実現するのです。
いずれにしても粗利益率を上げるのは本当に言うは易しで実行するのは極めて困難です。サービス業であれば売上=粗利益になるので粗利益率は100%となることが多いですが、それ以外の業種では粗利益率をどこまで意識できるかで売上に対して残ってくる粗利益額は大きく変わってきます。
先に紹介した鮮魚の大卸の会社ではこの数年で少しずつ粗利益率を上げてきております。もともと100億円単位の売上があるので1%の粗利益率改善で1億円単位の粗利益額が改善されます。ですからまずは5%の粗利益率が当たり前だという意識を捨て去ることが重要です。業界でも当たり前の粗利益率ですからこれを変えるのは並大抵のことではできません。
でもこれができなければ売上減少とともに事業継続が困難な状況になっていくのが見えています。まずは社長と幹部の皆様の意識を変えていく。そしてその部下の人たちへ。やはりトップが変わらなければ社員の皆様が変わるはずがありません。
バス旅客事業をされている会社でも利用されるのはどちらかといえば低所得の若者が中心となっております。1円でも低い料金のバスに皆さんが乗ろうとします。そんなところで1社だけ高い価格を出しても誰も見向きもしません。
この会社でも本当にいろいろな実験をされています。広いシートに仕立てたバスや設備を充実させたバスなどを製作し、単価を高い商品を創り上げました。しかしターゲット層が違いました。そもそも所得が高い人や時間に余裕のない人は新幹線や飛行機を利用します。ですから当初思い描いていたほどの収益を上げることができませんでした。
となると、原価を下げるしかないわけです。過剰包装と思われるものを徹底的に無くしていくのです。ただし安全コストだけは下げられません。今の時代、安全から踏み外してしまうと、事業自体が存続できなくなってしまいます。
少し道がそれてしまいますが、昭和の時代であれば全く問題にならなかったことが平成、令和と時代が移ろうとともに「安全」「情報漏洩」などに対する世の中の目の厳しさは増しております。事業継続にあたってはこういったリスクも考えなければならなくなりました。売上は変わらないのにこういった新たなリスク要因に対処するコストは事業としては痛いところですが、自社あるいは属する業界に合わせて対処していく必要はあると思います。
いずれにしても売上一本やりでの成長は成長ではなく膨張になりかねません。膨張してしまうと「働けど稼げず」の負のスパイラルになってしまいます。粗利益率を考えたところの売上増加を創っていかなければいずれは厳しい経営局面を迎えざるを得ないように思います。
日本経済がこれからますます厳しくなるような予想がされていますが、そうなったとしても顧問先の皆様はそうはならないように、微力ではありますが、マエサワ税理士法人スタッフ一同やってまいりますので、どうぞ宜しくお願い致します。