マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

有言実行の社長

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第122号] 有言実行の社長

2022年3月9日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の122】

『真摯に向き合う 』

様々な会社の十人十色の経営者から話をお聞きする。

成功談、失敗談、どれも銭が絡む。身につまされる話も数多い。

「いや、これは自分とは違う」という反発の心で聞くのか、「こういう考え方もあるのか」と素直に受け止めるのか、日々積み重なるものは変わってくるものだろう。

経営とは経営者の心が表れる。

口にすること、耳にすること、一つ一つの行動が会社の経営を培うものとし、真摯に歩みたい。

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マエサワ税理士法人の顧問先に大型機械の部品を卸売りされている年商30億円超の会社がございます。現社長は60代の女性です。4年ほど前、先代社長がお亡くなりになられたときに急遽会社を引き継がれました。現社長は社長就任当時、実はほとんどこの業界のことを知らない、しかもこれまで会社経営をされたことのない方でした。

私が初めて社長にお会いしたのは3年前です。現社長が社長に就いて1年ほど経った頃でした。初めてお会いした頃から『経営に関する考え方が非常にしっかりとされている社長』という印象がありました。経営者としての経験が1年足らずであるとは思えませんでした。

吐いた唾は呑めぬという経営姿勢

会社は主に自動車製造等のための機械に使用される部品を扱っていらっしゃるので、自動車製造など比較的大きな工業製品の需要が小さくなると経営環境が厳しくなります。

コロナ禍で社会全体の動きが止まった当初は、『ある程度の時間が過ぎれば需要も戻る』と業界は予測していました。取引先が在庫を蓄積していく傾向にあったため、コロナ禍に見舞われた最初の1年は会社の売上に大きな影響はありませんでした。

ところが当初の予測を覆し、コロナ禍は発生から2年が経過しても収まっておりません。ウィズコロナの状況で、世界は経済を再開していきます。自動車産業も製造を再開し始めたところでしたが、世界が一斉に経済活動を再開したことで、半導体不足という問題が起きてしまいました。現在も日本に半導体が入ってきづらい事態となっているようです。

半導体がなければ自動車の生産ができません。自動車の生産ができないのに自動車の生産に必要な機械の部品を購入しようとはなりません。ましてやコロナ禍1年目に取引先の大半が部品を在庫として購入していたため、コロナ禍2年目の2021年はこの会社の経営も大変な苦戦を強いられておりました。

2021年の売上目標は30億円。しかし決算まであと2か月というところで売上は25億円でした。2か月で5億円の売上を創らなければ目標売上を達成できません。営業に見込売上を確認しても遠く5億円には及びません。このままでは2021年の売上目標である30億円を達成することはできません。

2021年の売上目標を社長が30億円と決め、社員にもそう話しているのにこれを実現しないのでは社員への示しがつかないのと同時に、自分で掲げた目標を達成できないことを到底許すことができない社長がいらっしゃいました。

相手にとっての得(役立ち)を表現できること

ここから社長の営業攻勢が始まります。この会社には社員パート合わせて30人くらいの従業員がいらっしゃいますが、社長が図抜けた営業マンであり、総務マン、経理マンでもある唯一無二のスーパーマン正確に言えばスーパーウーマンです。

人任せにできないので、全部社長がやってしまいます。言葉でこう書いてしまうと「それでは会社を大きくできない」と仰る方もいらっしゃるかもしれません。しかし、社長が社長になられてたった4年です。4年前は自分の会社が何を売っているか、どういう商流でものが動いているのか、業界のルールもほとんど知らなかった方が30億円の売上を創っている上に、営業から人事総務、経理までほぼ一人でこなされています。

決してお体も強い方ではないようにお見受けしますが、平日は思うように動いてくれない社員を時には叱り、時にはなだめて少しでも会社がよい方向に行くように、社員との対話にも時間を割き、クレーム対応も全て社長に回ってくるので社長が先頭に立って処理しています。

こんな状況ですから経理などやっている暇は平日にありません。なにせ資金繰りから何から今はまだ任せられる人材がいないのです。ですから土日に黙々と経理や給与計算などを行うことになります。

そんな中での残り2か月で5億円の売上を創らなければならない状況です。

この社長の興味深いところは理屈で取引先にこの商売を行うことで利があることを納得させるところにあるように思います。

「長い付き合いだから助けると思って今回はお願いしますよ」ということではなく、「今回のこの商品をこれだけ購入すれば通常のリベートだけでなく、キャンペーンでのリベートも上乗せできます。○○円だけ仕入が圧縮できますよ。12月には悪いなりにも部品需要があるから、買うなら今がチャンスです。」といった感じです。

取引先を説得できる「業界の今後の予測」には、寝る間を惜しんで勉強された結果、社長に蓄積されていった業界の知見が活かされています。また、社長は業界に商慣習として存在するリベートについても深い見識をお持ちです。同業他社の攻勢を細かく予測した上で自社の営業を仕掛けられていたようです。

よくある通販番組のキャッチ―な言葉のようにも見えてしまいますが、長く取引を続けてきて頂いた顧客に下手なことは言えません。結局、社長は2か月で5億円を売り切り、目標売上30億円を達成させました。

有言実行とはよく言ったものですが、並大抵の努力と我慢ではないと思います。最近ではこの会社にも新しい若い社員が次々に入社され、雰囲気もだいぶ変わってきております。昔からの社員と最近入社した社員との軋轢みたいなものはご多分に漏れずあるようですが、こんなことに揺らぐ社長ではありません。

2022年の売上目標は30億円をはるかに超える金額です。年齢や性別ではなく、経営に対する熱心さや先の見通しの確かさ、目標達成のためのあくなき努力、粘り強さなど本当に頭が下がる方です。

今、日本経済は全くといっていいほど元気がありません。少しでも社長の皆様に元気を出して頂けたらと思います。空元気であっても社長が明るいお顔をされていれば社員はきっと安心します。今できることを一つずつやってまいりましょう。