マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

安売りという経営戦略

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第135号] 安売りという経営戦略 

2022年9月7日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の135】

『価値をいかに理解してもらうか 』

価格設定は本当に悩ましいものだ。
特に昨今はインフレによる原価高で多くの経営者が頭を抱えている。
この状況下で価格維持をしていることは安売りと同義であり辛い選択だ。

高い安いは十人十色の捉え方があるが、丁寧な訴求も大事である。
価値ある商品の価値をいかに社員へ理解させ、顧客へ届けるかという視点も忘れずにこの苦境を乗り切って頂きたい。

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時代に合わせた価格戦略

ある経済雑誌に、すかいらーく創業者の横川寛氏のお話が掲載されていました。表題は「外食が安売りに走ったのは僕の反省でもある」というものでした。

この記事によれば、1970年にすかいらーくの一号店が出店されました。自動車社会の到来という時代で、駅前で店を探すのに困る状況だったので、ゆっくり食事できる場所を提供するコンセプトで、郊外への出店となったそうです。

当時は牛や豚を使ったハンバーグを家庭では食べられなかったので、ファミリーレストランは瞬く間に広がりました。

それから10年ほどは外食産業が新たな価値を提供し続けることができていましたが、1980年代に入ると既存店での客数は落ち始めたそうです。

客数の落ち込みを改善するために実施されたのが「安売り」でした。ただ今では横川氏は、「レストランがレストランらしいことをしなければファストフードには勝てない。」と仰っています。

1992年には390円ハンバーグを引っ提げてガスト1号店を出店し、すかいらーくの利益を超えました。当初はすかいらーく3店のうち1店だけをガストに転換する予定が、結局全店ガストに置き換わってしまったそうです。

「経営は、今の世にない価値を創造するより、価格を下げる方が楽だ。例えば、ホワイトソースの材料なら、バターをやめてマーガリンにする。次にマーガリンからサラダ油にする。その次はてんぷら油へ。最後は油なら何でもよくなる。」

1段階の変化だけならすぐには分からないけれども、4段階になれば明らかに味が落ちる。とはいえ原価率を下げた分だけ儲けて店を増やした時代もあったそうです。

私自身子供の頃、確かにファミリーレストランには憧れのようなものがありました。当時住んでいた自宅近くにファミリーレストランがありました。年に何回かだけその店に行く機会がありました。普段食べたことのない洋食をその時だけ食べられて、今でも強烈に覚えている光景の一つです。

「でも今の若い人はそれほどファミリーレストランに感動するようなものは持っていない。現代は様々な場所で食事が可能になった。」横川氏が言っているのは、「多店舗展開した時に思想や質が落ちない仕組みをどう作るか、誰もわかっていないし、横川氏自身にもその答えは見つかっていない。」ということでした。

価値あるものを価値ある価格で

企業が儲けを出すためには、
1.良い商品を持っていますか
2.良いお客様を持っていますか
3.良い商品と良いお客様をよく理解している社員がいますか
この3つの要素をクリアする必要があります。

良い商品とは自分ではなく、あくまで商品を手に取った相手が良い商品だと思える商品でなければなりません。お客様が手に取り、価値ある商品・サービスだと思わせるモノを時間をかけて作るしかありません。さらにその時点で良い商品だったとしても時間の経過とともに劣化していくので、事業を続ける限りにおいて常に追いかけていかなくてはならないものなのでしょう。

安売りをすることは京セラの稲盛さんをして経営でもなんでもない、と言わせしめています。安売りでしか売れない商品は確かに「良い商品」足りえません。やはり経営の王道は「良い商品」を創ることです。我々のようなサービス業であれば新たな業態開発ということになるのでしょう。

「良いお客様」というのはたくさん買って頂けるお客様とは限りません。こちらがお願いした価格で買って頂けるお客様です。たくさん買って頂いてもこちらの考える価格を下回る価格でしか買って頂けないお客様は良いお客様とは言えません。

良い商品があって良いお客様がいらしたとしても、商品をお客様へ届ける社員がいなければ商売は成立しません。社長がどれだけ良い商品と良いお客様を持っていたとしても社員がそのことを理解していなければ、不要な値引販売をしてしまうことになりかねません。つまり「良い商品」と「良いお客様」をよく理解している社員がどうしても必要になってきます。

横川氏は「外食が安売りに走ったのは僕の反省でもある」と仰っておりますが、外食に限った話ではないと思います。どんな業種業態でも価値あるものを価値ある価格で売ることが大原則であるはずです。もし安売りして成功し続けるなら、100年企業にもその名前を連ねるはずです。

安売りの代名詞でもある100均も今や粗利益率の高い300均に軸足を移しつつあります。もちろん会社ごとに置かれている状況、市場などによって商品・サービスの違いを出しづらい業種業態もあるのは事実です。

それでも大原則として「安売り」はしない、ということが、結局は会社が今後生き残っていくための重要な経営戦略になってくるのではないでしょうか。