マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

経営学と経営実学との違い

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第190号] 経営学と経営実学との違い 

2024年10月16日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の190】

『どうすればより儲かるか?黒字になるか?のための分析』
月次や決算の数字を眺め、ただそれを知っている経営学や管理会計の枠に当て嵌めたところで役立つものは得られない。

必要なのは業種業態、もっと言えば一つ一つの会社ごとのその実情に合った数字の分析をすることだ。

どうすればより稼げるか?お金を残せるか?が経営においては思考の起点となる。

そのための数字の分析をし、何を伸ばせば良いか?何を直せば良いか?の気づきを得る。

儲けの役に立つ経営分析ができているか、今一度振り返りたい。

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本メールマガジン第187号で「財務諸表を読み解く上で重要な指標・比率」をご紹介いたしました。今回はそこでも重要指標として挙げさせていただいた「労働分配率」のお話です。

指標の変化をどのように捉えるか?

『「労働分配率」は人件費÷粗利益額で算出されます。一人当たりの人件費÷一人当たり粗利益額でも同様に算出できます。業績がある程度安定している中小企業の労働分配率はおよそ50%前後です。仮に月の一人当たり生産性が70万円の会社があるとすれば、この会社の一人当たり人件費は70万円×50%=35万円となります。これには社員の給料はもとより、会社負担の社会保険料も通常含まれますので、社員の給料の額面は31~32万といったところでしょうか。』

誤解を恐れずに言えば

・労働分配率は業界平均より低い
かつ
・従業員の平均給与は業界平均より高い

という状況が望ましい状態となります。


様々な顧問先様で業績の確認をするときにはこの「労働分配率」もご報告することが多いです。ある顧問先様の経営報告会でも「労働分配率」についてお話した時のことです。

上述のとおり「労働分配率」の算出方法は人件費÷粗利益額です。労働分配率は人件費の額と粗利益額が変数となります。数学的にいえば労働分配率を上げようと思えば、人件費の額を増やすか、粗利益額を減らすか、しかありません。

この顧問先様ではこれまで40%前半で推移していた労働分配率が先月の月次報告時に40%後半に上昇しておりました。私はこの状況について「社員の皆さんの給料自体が増加していることによる人件費の増加が労働分配率の上昇に影響を与えていることは否めませんが、人件費の増加自体が悪いということではなく、粗利益の額が落ちていることの方が問題である」という説明をしました。

多くの関与先において、人件費は最近の賃上げ要請の流れもあり、また人の採用が難しいこともあり、増加傾向にあります。人件費の増加自体は仕方のない部分だと思います。だとすると労働分配率を決定するもう一つの要因である粗利益額を大きくすることで労働分配率の上昇を抑えるしかありません。

ところがこの顧問先様社長は次のように言葉を言い換えました。

「当社の人件費は固定費だ。固定費が増えたとしても固定費である以上、固定費自体を減らすことは基本的にはできない。その固定費からどれだけの売上や粗利益を創ることができるかが問題である」と。

仕方なく掛かるコストと捉えるか、売上を稼ぐためのコストと捉えるか

もちろん固定費であっても内容を精査すれば減らせる部分もあります。この会社でも運賃等コストが増加しているものに関しては内容を確認して進めています。ただし、コストが増加しているものに対してやみくもに減らさなければならない、ということではなく、運賃であれば売上高が減少していれば売上に比例して発生するコストなので支出が減ってもよいはずなのになぜ増加しているのか、という観点でコストの増加が適正なものか否かをチェックしていらっしゃいます。

話が少しそれましたが、私は労働分配率については粗利益額と人件費の両者あたかも変数であるかのように申し上げていましたが、社長は「人件費=固定費」だから変数は粗利益額だけとなるとおっしゃったわけです。だからこそ固定費たる人件費をいかに効率的に働かせてより多くの粗利益額を創り出すかが問題になってくるとおっしゃったわけです。「理論は理論として存在する。しかしわが社ではその理論をこう考える。」これこそ、経営実学ではないでしょうか。


経営指標のひとつに損益分岐点売上高というものもございます。損益分岐点売上高とは「会社の売上から費用を引いたときにちょうどゼロになるポイントの売上高」をいい、「固定費÷{1-(変動費÷売上高)}で算出され、別の表現をすれば「固定費÷粗利益率」となります。
損益分岐点売上高は低いほど売上減少に耐性があることになります。


ただこの顧問先様の社長からすれば損益分岐点売上高はかかった固定費からいくらの売上高を創ることができるか、であると。固定費=粗利益額になったところがたまたま損益分岐点売上高になるだけで、所与である固定費からどれだけ多くの売上あるいは粗利益額を生む出すことができるかの競争である、というのが社長の持論です。


固定費は売上が増加しようとも減少しようとも変わらず発生するコストです。そういう意味で固定費を意味のあるコストとするためには、いかに売上そして粗利益を1円でも多く創り出すことができるかが経営上求められることです。

私も税理士という専門家ではあるので、経営指標を使って財務諸表の分析を顧問先様社長にお伝えします。ただ社長の皆様は私から経営学を教わろうとは思っていらっしゃらないはずです。顧問先社長はあくまで経営実学の話を求めていらっしゃいます。私自身、経営学と経営実学は違うということを改めて認識させて頂いた次第です。

常にこういったことは意識しておりますが、社長の皆様のお言葉にハッとされることは少なくありません。今後も経営実学として意味のあるお話を社長の皆様にご提供してまいりますので、どうぞ宜しくお願い致します。