マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

棚卸の重要性について

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第205号] 棚卸の重要性について

2025年5月7日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の205】

『0.1%の追求』


資本主義経済において、会社経営は常に競争である。

コンマ1%の粗利率を真剣に考えている会社と勝負をしている中、

粗利率の把握を疎かにする経営などままごとに他ならないことを自覚すべきだろう。

正確な棚卸を行うことでしか正確な粗利率(原価率)の把握はできない。

儲けを追求するその土台が棚卸であることを会社全体で腹落ちさせて頂きたい。

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5月1日にある顧問先様の棚卸の立会いに伺いました。こちらの顧問先様は4月決算なのでまさに期末棚卸の現場への訪問です。

在庫を見れば経営の異常も見えてくる

昔、私が会計士として仕事をしていた時には主な担当先が製造業の会社でした。そのため3月31日、4月1日は日本全国の工場に実地棚卸に伺っておりました。前号のメールマガジンでも書かせて頂きましたが、在庫はお金そのものです。上場会社が一日の売上を捨ててまでやっていることです。それだけ重要なイベントだといえます。

さて話を戻しますと、なぜ棚卸の現場に行かせて頂くことになったか、です。

この会社はオーナー社長が自社株を上場会社へ売却したことで最近、上場会社の子会社となりました。オーナー社長の時は、期首から9か月間は受注した製品の製造だけを行い、在庫を貯め続け、残りの3か月でそれらの在庫を得意先に納品していくという商売をされていました。

そのため決算を終えるときにはほとんど在庫が残らない状況でした。期中には貯めている在庫の確認をオーナー社長が必要に応じて行うだけで、会社として在庫管理することはありませんでした。従って社員の皆様にも「在庫」を認識しなければならないという意識はありませんでした。

ところが会社の置かれている状況は大きく変わりました。オーナー社長が所有の自己株式を上場会社へ売却したことで、上場会社の子会社となりました。この会社には新社長が来られました。その結果、親会社から月次決算を求められるようになり、毎月リアルタイムでの在庫の把握が必要になってきます。

さて、在庫の把握をしていくにあたり、この会社にはいくつかのクリアすべき課題がありました。

1.滞留在庫の存在
上述の通り、前社長が経営されたときからずっと決算に向けた3か月でほとんどの在庫は納品されていましたが、商売の性質上、多少のストックをしておく必要があったそうで、それが積もりに積もった状態になっていました。いわゆる滞留在庫の存在です。

2.仕掛品の把握
製造業の在庫把握には非常に難しい部分があります。それは月末において製造中の製品、つまり仕掛品の存在です。これが厄介です。卸売業や小売業であれば、モノを仕入れて、売っていくだけなので数量さえしっかり把握していけばよいわけです。一方で製造業の場合、材料を購入してそれを生産ラインに投入し、同時に人も生産ラインに投入されることになり、機械装置も使うことになる。従って材料費と労務費と経費を「仕掛品」という製品の未完成品として把握する必要があります。ここに製造業の在庫把握の困難さがあります。つまり仕掛品をどのように単価で評価するか、個数をどのようにカウントしていくか、です。

なぜ棚卸が重要なのか?を語れるようにしましょう

一番の課題は社員の皆様に在庫の把握が重要だということを認識頂くことでした。いくら上記2つの課題をクリアしたとしても実際に数量カウントを行う現場の方にこそ、これを意識してもらわないと結果としての実地棚卸は不正確になってしまいます。

これら課題を解決するために、新社長はまず1年間で3回の実地棚卸を実施しました。その都度、課題点を洗い出し、修正しましたが、なかなか精度が上がりません。それでも新社長は粘り強く、社員に在庫の重要性を説き続け、そして今回の期末棚卸を迎えたわけです。

5月1日に棚卸をする予定でしたが、4月30日に終えておりました。在庫は整然と整理され、在庫の種類ごとに棚卸票(在庫名、日付、数量を記載)が貼られており、一目瞭然で結果を把握できます。テストカウント(ランダムに選択した在庫を再カウントする)してももちろん棚卸票のとおり問題ありませんでした。

滞留在庫についても今回、処分する方向で進めました。これにより倉庫も空きスペースができ、在庫管理がよりしやすくなりました。

「今回カウントの誤りがあったら今後は毎月実地棚卸をすることになる」と新社長が宣言されたこともあり、良い緊張感の中、実地棚卸が行われました。1年前にはなかった緊張感が今回の棚卸にはありました。

これもこの会社にとって大きな見えない財産になっていきます。社員の皆様に「なぜ棚卸が重要なのか」を理解して頂くことが重要です。なぜ重要なのか、わからないのにただ正確に数えなさい、といっても正確に数えられるものではありません。

最も重要なのは、社長自身が棚卸の重要性について十二分に理解することです。社長が在庫の重要性を感じなければ、いくら在庫管理が重要だと説いても意味がありませんし、在庫管理の精度は上がりません。

社長の皆様の会社の在庫管理について、一度確認されてはいかがでしょうか。