マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

見切り千両

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第17号] 見切り千両

2018年02月28日 配信
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こんにちは、マエサワ税理士法人専務理事の前沢寿博です。

我々の業界では所得税確定申告で忙しい時期です。
実は平成28年度あれほどあった不動産の譲渡案件が、平成29年度は激減しております。
どうしてなのか思うところはございますが、またそれは別の機会に譲るとしまして
今回は損切りも必要な時がある、というお話をさせて頂きます。

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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の17】
『見切り千両』

投資も経営も、含み損が出たときこそ決断力が問われる。
ときには、現状をリセットする勇気も必要だ。

遠回りに思えても、まずはマイナス要因を取り除き、
それから成すべきことを確実に実行していくことが儲けへの近道となる。

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今までに上場株式や投資信託を売買したことはありますか。多くの方が経験されたり、あるいは今も運用投資されていることと思います。
投資で一番難しいのは「いつ」売るか、ではないでしょうか。

所有している株式が含み損を抱えている場合はなおのこと難しいでしょう。「このまま持っていれば株価が回復するかもしれない」と考え売却しなかった結果、さらなる損失が出てしまったなんてことは多くの方が経験されているのではないでしょうか。

人間というのは利益が減ることはまだ我慢できるが、少しでも損失が出ることを極度に嫌う動物だそうです。しかし、ときには損切りをすることも必要です。

損切りできる投資家は儲けることができる

株式投資を続けている方でうまくいっている方というのは、皆様ご存じのとおり、損切りができる方です。
例えば、「買った時の8割まで株価が落ち込んだら売却し損切りする。逆に買った時の2割増しの株価になったら売却し利確する。」というような自分ルールを作り、それを確実に実行することが投資で儲けるコツだそうです。

株式投資で言うところの「買った時の8割まで株価が落ち込んだら売却し損切りする」ことこそ「見切り千両」ということになります。つまりある程度の損失は覚悟の上で、見切って所有している株式を売却することができる人が長い目で見ると儲かる人だということになります。

これは商売にも同じことが言えるようです。
今回は実際にいったん沈んだ会社を見事に建て直した社長のお話をさせて頂きます。

この社長の会社は食肉加工の製造会社です。一時は非常に業績が良く、証券会社と監査法人が入り、上場まで視野にいれた経営をされていた会社でした。

その後、リーマンショックなどもあり上場こそ果たせませんでしたが、業績は堅調に推移しておりました。

新社長に会社の経営を委ねたが…

そんな中、社長も事業承継を考えるようになりました。ただ社長のお子様は皆、ご息女だったこともあり、従業員の中から事業承継者を決定しようと考えておりました。
生え抜きで社長の右腕だった方を次期社長に任命し、社長は肩書を会長と変えたものの、実際にはほとんど会社には出社しなくなりました。もちろん会長がいつまでも会社に来ていては新しい社長も経営がやりづらいことをわかっていたからです。

ところがです。それから数年後、新社長が病魔に冒されて倒れてしまったのです。長期療養が必要な状況でしたので、急遽、会長が会社に戻られ、再度経営に携わることになったのです。
何はともあれ、会社に向かった社長。そして会社の現状を見て驚いたのです。

利益が出ていない!でも、「なんとかなるな」

下記は、社長がお書きになったメモ、そのものです。

・休憩室の鏡に唾が吐きかけられている
・クーラーや電気がつけっぱなしになっている
・なぜ電気がついているのかと社員に聞くと、社員は再運転すると電気代がかかると。そんなことはお前でなく、社長が決めるんだ
・冷蔵庫の整理整頓ができていない。ただ仕入れたものが入っているだけ
・冷蔵庫がいっぱい。注文の都度、1300アイテムの中から探している
・せっかく洗った挽肉の機械をもう一度使って、また洗うようなことをやっている
・事務所内、シマ・縄張りを作っていた。あっちのシマの電話はとりません
・朝、酒臭い社員
・月末に実地棚卸をやらない。コンピュータのみの帳簿棚卸だけ
・売れない、賞味期限切れの在庫があちこちから出てきた
・3階は物置小屋になっていた
・工場長が手をけがして休み。社員も定休だからと休んでいる
・人を育てようとしていない 怒らない 諭さない 褒めない 日報を読んでいない
・客のクレーム、ニーズが日報に書いてあるのに
・役員クラス、なにをやっているんだ
・当たり前がやれていない
・社長の指示待ち、遠慮体質が抜けていなかった

これが、社長が再登板するために戻ってきた会社のその時の姿でした。社長が数年前まで社長をしていた時とは違いすぎるぐらいに全てが変わっていました。
その事実を知ったときに社長は愕然としましたが、一方でなんとかなるな、とも思ったそうです。

それはなぜでしょうか。
社長の過去の経験上、やることをやれば利益が出ることが分かったからです。

具体的には以下のことを実行しました。その内容についても、社長はメモを残しています。

・実地棚卸をすぐにさせた
・ともかく整理整頓をした 3階の荷物はトラック10台分のごみの山
・いらない肉を捨てた
・よこしまなアルバイトを整理した
・数字の見える化の実施
・冷蔵庫から1品出すのにいくらコストがかかっているの?
・頑張った、一生懸命やっただけではだめ
・伝票発行を徹底。深夜社員(倉庫からの荷出し)の人件費の計算
・適正在庫はどのくらいなの?
・客からのオーダーを12時までにもらうことで統一し、ピッキングを一度にできるようにした
・ばらばらの注文を客にやめさせ、12までに注文するようにさせた 12時以降は翌日回し
・儲からない客の順番にコンピュータに出るようにした
・細かすぎる注文、デリバリー地域から外れている客はとにかく値上げ
・全体の3割の客を切った
・1300アイテムが700アイテムになった
・倉庫の整理整頓ができる
・有利な仕入れもできる
・仕入だけでなく、あらゆる無理ムラ無駄の止血ができた

事業の再建は簡単ではなかった。しかし売上は半減したものの利益は出るようになった。
なぜ利益が上げられなくなっていたのか。そういう体制になってしまっていただけのこと。皆の思いが一同に集まることが大事。

あとは人をどうやって育てるか。仕入、製造、開発、営業、経理に若い人をつけた。

ここまでが社長のメモです。

儲けるために損切りができるか?

私が話すより何百倍も信ぴょう性があります。やはり儲けることができる人は儲け方をよくわかっていらっしゃるというのが素直な感想です。事業再建のための示唆に富むメモではないでしょうか。

特に注目すべきポイントは、
・売れそうにない、あるいは賞味期限切れ間近の在庫を思い切って捨てた。
・そしてアイテム数も1300アイテムから700アイテムに減らした。
・得意先を30%切った。
・つまり売上を半減させた。

すなわち損切りをしたというところです。

在庫は資金が変わったものなので、お金そのものともいえます。ですから滞留在庫、不良在庫と薄々わかっていても捨てられない方がほとんどです。しかし儲かる人は儲けるために損切りを断行します。

損であることは間違いない。しかし将来を見据え、その損が大きくなる前に止血ができるのであれば、損切りには大きな価値があることも多いのです。まさに「見切り千両」です。

在庫に限ったことではないと思います。儲けの出ない部門、儲けの出ない店舗…。
それらをいったんリセットし、あるべき姿にしてからやるべきことを確実に実行していく。
これが遠回りのように見えて実は儲けの近道なのかもしれません。