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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」
[第49号] 人を育てる難しさ
2019年5月22日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の49】
『人を育てる難しさ』
会社を伸ばし、自分も相手をも豊かにする仕事とは、付加価値の高い仕事に他ならない。
目の前の仕事を与えられただけやっていては、当然にそれ以上のものは生まれない。
価値を生み出す一歩は、ときに自分のテリトリーを超えることもあり、本能的にも不安が伴うことだろう。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」
かの山本五十六の言葉だ。これには続きがある。
「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」
言葉に行動が伴った社長の背中は、従業員はきちんと見ている。そのことを自覚して社長は襟を正し、従業員も意識を高め、互いに成長するのだろう。
一にも二にもまず社長自身が儲けに対する強い姿勢を周りに見せ続けることが必要である。
それが徐々に従業員へ伝播し、自社の儲けへの良い循環を生むということを自覚すべきであろう。
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今回は顧問先様へ伺った際にご相談を受けたお話について書いていこうと思います。
この顧問先様は規模が大きく、年間100億円単位の売上を上げており、グループ会社も20社ほど展開されています。
このグループ会社の中に経理受託会社がございます。この会社はグループ会社の経理・給与計算などを受託しており、従業員の多くは子育て世代あるいは子育てを終えられた女性です。
事実関係の正確な把握が経営判断をより確かなものにする
この会社は現状、仕訳入力が主業務となっております。
得意先であるグループ会社から送られてくる請求書や領収書、通帳データから仕訳を起票するのです。従業員は表面的な資料の文言から、機械的に仕訳を積み上げていきます。
今回の相談は、この経理受託会社の責任者から受けたものです。
「グループ内において、我々は完全な下請事務の会社である。しかし今後、レベルアップを図り、存在感を高めていきたい。そのためにどうしたら良いだろうか。」
経理受託会社の仕事の積み重ねは、最終的には成果物として各種経営資料となり、経営判断に使われることとなります。仕訳の一つとして疎かにはできないわけですが、その日々の取引の把握について、日頃から引っ掛かりを感じておりました。
この経理受託会社の得意先であるグループ会社も、我々マエサワ税理士法人の顧問先です。
我々が月次監査でうかがい、詳細を確認すべき仕訳があれば、まず最初に話を聞くのは仕訳の入力担当者、すなわちこの経理受託会社の従業員です。ところが我々の質問に対する彼女たちの回答は「わかりません。それは会社に聞いてください。」ということが多いのです。
自社に経理がある会社ではこういったことは考えられないことです。「通常、取引内容が分からなければ現場のわかっている人のところに確認に行き、その事実関係を明らかにし、その事実関係に基づき起票をしていきます。グループ会社がお客様であれば、例えお客様の会社でもその会社に行って事実関係を調査することができるのではないか」と私はお話ししました。
我々が月次監査で経理の方が入力された仕訳をチェックする際もそうですが、書類だけを見ていても事実関係がわからないとその仕訳が果たして合っているかどうかわからないことが間々あります。もちろん事実関係を確認するために関係者の話を聞きますが、それでもいまいち実態をつかめないことがあります。場合によっては直接現場に行くこともあり、現場へ行くと「こういうことだったのか」と一目で分かることがあります。
だからこそ経理というのは、起票する仕訳が事実に合致していることを確認するということが重要になってきます。そうでなければ正確な月次損益を出せずに、誤った結果に基づき、将来の計画を立てることになり、誤った結果を招く場合もある訳です。
付加価値を生む業務は会社と自分を豊かにする
一方で自分のやるべき仕事というものが起票することだと考えれば、それ以外の業務というものは見えなくなってしまいます。このように考えている人に自分の目で事実の確認をしましょう、と言ってもおそらくは、私は私のやるべきことをやっているのに、どうして仕事を増やすの?というおかしな話になってきます。
社長からすれば、もっともっと仕事の幅を広げてほしいと従業員さんに対して思っています。仕事の幅を広げることで相手への役立ちが高まれば相手からの頂く報酬が上がり、ひいてはその人個人への給料が増えるのだから頑張りましょう、という話になります。つまり従業員さんの存在価値が上がるとともに従業員さんの実入りも良くなるわけです。
しかし従業員さんと一言でいっても様々な人がいます。今の給料に満足しており、金銭的なインセンティブがあったとしても、それよりも今まで通りゆったり仕事をしたい、と考える人もいるでしょうし、そのインセンティブに魅力を感じ、新しい仕事を身につけようとする人もいるでしょう。
いずれにせよ、短期間で従業員さんの意識を変えるというのは極めて困難だと感じます。ただ重要なのは社長が会社をどのようにしていくかを事あるごとに常に従業員さんへ知らしめていくことなのではないでしょうか。時間のかかることですし、短期的には「つまらない話をする社長だな」なんて思われるかもしれません。
しかし長い時間伝え続ければ、そして自らの発言を具現化し、儲けを出している社長の姿を見せ続けていけば、社長の考えに賛同する従業員さんが徐々に増えていき、社長の考えと同じように考え、行動していくように変化していくと思います。
過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる
顧問先様の会社へ行くと、良くも悪くも社長の考えや行動と同じように従業員さんが動いているように見えます。社長が稼いでいる会社の従業員さんはやはり従業員さんも稼ぐことに邁進していますし、社長がそれ以外のことに集中していると、従業員さんも稼ぐことからすればむしろ逆の行動をしていることが多いように見えます。
社長としては常に儲けのためにどうするか考え、それを行動に移す。従業員さんには会社の進むべき方向性を常に話して見せていくことが重要だと感じます。もちろん全く変わらない、変わろうとしない従業員さんもいることでしょう。それはそれとして変わっていく従業員さんと一緒にやっていくしかないのかもしれません。
私自身、自分を変えるのは本当に難しいと日々感じています。そんな自分が他人を変えるなどということはまさに至難の業です。それでもマエサワ税理士法人が長期的に成長し、顧問先様の役に立つ存在であり続けること、そして職員へ給料を出し続けることを実行するためには、まずは自分が変わらなければなりません。その努力を諦めずに続けることで、職員に私の信じるマエサワ税理士法人の未来像が伝わっていくことを願っています。
結局は人がすべてだと思います。会社の繁栄を考えれば、そのためにはまず自分自身が儲けに対する考えをしっかり持ち、行動に移す。これを従業員さんに見せて聞かせてさせることが重要なのだと感じます。
「過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる」という言葉があります。人を育てるということはいろいろな意味で自分を変えるということかもしれません。
今回も長文をお読み頂きましてありがとうございました。