マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

相続の難しさ

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第52号] 相続の難しさ

2019年7月3日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の52】

『銭金は人間の本音がからむ』

資本主義で最も重要なのは金である。法律は決め事でありその次の話だ。
経営もしかり、相続もしかり、人間が行うものである以上、まず感情が先に立つ。
大部分が理屈とか条文の話をしているのではないのである。

儲かっている会社の株価は高い。これはその裏に経営者の儲けへの意志と不断の努力があったからに他ならない。
ところが経営から離れている者ほど会社の株式を数値として捉え、手を伸ばそうとすら考える。
株を受けるということは会社を継ぐということであり、それは数値ではなく、銭なのだ。
会社の維持、更なる発展に向けて夜も眠れぬ日々を送る覚悟がないならば、手を出すべきではない。
だがどちらの立場も必死であり、そこには本音のぶつかり合いしか生まれない。

社長はこの事態が自分亡き後に起こり得る話であることを自覚せねばならない。
自分の家族と自分の会社、それぞれにとって「正解に近い」相続を考えて頂きたい。

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最近、とみに相続についてのご相談が増えております。何度か書かせて頂いた事業承継もそのひとつですが、ご相談内容は千差万別です。そしてどのご相談についても「正解があるようでない」というのが実情です。

相続と相続税は別物である

通常の訪問時、我々がお話をさせていただくのは経営者の方です。社長と会社経営についてお話をするにあたり、我々と社長は「経済界=経済合理性を追及する」という共通の土俵で話ができているかと思います。

ところが話題が相続となると、例えば社長の奥様、ご兄弟、お子様など、普段は挨拶程度しか交わさない方々とお話をする場面も多くなってきます。

誤解をおそれずに言えば、「経済界」という共通の土俵でお話をしている限り、意思疎通を図ることは比較的容易です。万一会話が脱線してもお互いが脱線していることに気付いているので容易に元の話に戻って来られます。

しかし、相続について、普段経営に参画されていない方々とお話するとなると、そうはいきません。いろいろな考えを持つ方、あるいはいろいろな感情を持つ方と、しかも複数の方々とお話することになります。
ここが経営中心、社長の儲けのことを中心に考えて話しているいわゆる月次監査とは大きく異なるところです。いろいろな考えを持つ方がおり、感情が支配する部分もあるということをよくよく理解してその場にいなければ、我々が話をまとめるどころか、喧嘩のタネを作ることにもなりかねません。

「相続税はいくらかかってもいいから、とにかくこの財産はこの人に相続させたい」という話もあるでしょう。あるいは「子供には平等に財産を分け与えたい」というお話もあります。どれが正しくどれが間違っているという話ではありません。これは感情の話です。

相続税という税法の観点からすれば、こうしたら相続税を少なくできるというテクニックはございます。しかしそれをいくら私が力説しても、相続税の納付額以上に財産の分け方の方が大きな問題になっている場合には、私の力説は無用の長物であって、むしろ誰も私の話に耳を傾けようとはしません。

財産の承継と事業の承継は別物である

ただ相続財産の中でも、事業承継にかかる非上場株式の相続だけは他の相続財産とは異なるのではないかと感じます。(事業承継については以前にも、①会社の株式の承継と②事業(ビジネス)の承継の2つがあります、というお話をさせて頂きました。①、②のどちらも承継できた時に本当の事業承継の完成なのだと思います。ここでは特に①会社の株式の承継を取り上げたいと思います。)

社長の財産は今まで社長が築いてきた会社の株式の他に不動産、現預貯金があるとします。この時、どのように相続させることが正解なのでしょうか?

実は正解というものは存在しない、というより正解かどうかわかるのは20年後、30年後の話です。20年後、30年後に相続を受けた子孫が繁栄していればおそらく正解なのでしょう。ただ相続をする今は正解かどうかわからない。だから相続というのは厄介なのです。

そこで話を戻して、会社の株式はどのように承継するのが正解に近いのか。
これは皆様お考えのとおり「会社の事業を承継する子供に相続させる」のが正解に近いのではないでしょうか。
事業経営をする際に一番邪魔になるのが、事業に関係のない人たちが経営に口を出すことです。社長がお元気なうちはそういったことは起こりえないですし、仮に起きても社長が抑え込むことができます。しかし社長がいなくなると抑え込むことができる人がいなくなるので、悪気の有無に関わらず、外野が口出しをしてくることもございます。事業を承継した子供が事業とは関係のない所で苦労することになるかもしれません。

私にも子供が2人おりますので、親の気持ちというのも少しはわかるかとは思います。そういう意味で子供たちに平等に財産を分けるということはわからなくもありません。

しかし会社が大きくなればなるほど、社長の会社であって社長だけの会社でなくなるのも事実ではないでしょうか。社員が多くなれば事業承継する方は社員の人生も背負わなければなりません。さらにその家族、取引先も含めて多くの方の人生を背負っていかなければなりません。つまり、会社を潰すということが一番の罪になり、多くの方々の人生を背負い続けるためにも、後継者は儲け続けていかなければならないのです。

だとすると、そういった会社の社長ほど、会社の儲けや経営の安定につなげるには、どういう株式の承継の仕方が良いのかが最も重要になってくるのではないでしょうか。その上でその他に様々な財産があれば、残された家族が皆納得できる形で相続させることができれば最高なのですが。

申し上げたかったのは、非上場株式も相続財産となり、しかも儲けの出続けている優良な会社ほど株価が高くなる一方で、上場株式とは違い通常は売却できないので、相続税だけ納めなければならない紙切れでもあります。またこれは、事業経営をする人が手元に置いていなければいつ背中から刺されるかわからないような重要な紙切れでもあります。

そこを事業承継者以外の人にご理解頂くことが重要であり、また時に非常に困難な場合があります。

事業を経営されている社長の皆様には是非とも、せっかく苦労して儲けの出る会社にされたのであれば、なおのことその会社が将来も変わらず儲けの出る会社であり続けられる可能性の高い相続を考えられては、と考えている次第です。

いろいろな事業承継を見て最近思ったことを書き連ねました。相続、事業承継は本当に難しいです。我々は幅広い視野と深い思慮をもってご相談に応じていく所存です。
今回もお付き合い頂きましてありがとうございました。