マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

相続の難しさ②

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第62号] 相続の難しさ②

2019年11月20日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の62】

『安定した経営のために出来ること』

経営を安定させるためには、一に儲けること、二にお金を貯めること、そして円滑な事業承継を整えることである。
その全てに影響を及ぼすのが、社長の支配力である。
会社の経営の支配権は言うまでもなく議決権、一般的には株式の保有割合で決まる。
そこに会社の経営に携わらない者が混じると、長い目で経営は不安定なものとなってしまう。

自宅や会社の株式は、普段は意識しなくとも売買取引や課税の都合上、法律的な価額が決まる。
ただし額面通りの価額がその物の価値と等しいかと言えば、そうではないことが多い。
それを使う者が、支障なく使えて初めて意味があり価値を持つからだ。

価値と価額は、経済と感情の視点から釣り合いがとれないことが多くある。
譲り渡す者にしか付けられない道があるということも含み置き頂きたい。
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以前にもこのメールマガジンで相続を取り上げたことがございますが、ここ数年、相続は我々の業務においても重要な分野となっております。
どのように相続すればよいのかといったご質問から始まり、具体的な施策を検討する会議も増えてきました。現実に相続税申告をさせて頂く機会も急激に増加しております。

そのような状況で改めて私が感じるのは「やはり「相続」は簡単ではない、単純ではない」ということです。100の相続案件があるとすれば100通りの事情があり、相続人の意見も分かれます。最終的にひとつの結論に至ったとしてもそれが正解かどうかは将来にならないとわからないものです。

もし今後、皆様の中で相続という問題に直面する、あるいは今既に直面している方がいらっしゃれば、その悩み解決のための一助になればと思い、この第62号を書かせて頂きます。

経済合理性と感情合理性の狭間

事業を経営されている社長にとって、事業用資産とその他の不動産や金融財産とでは意味合いが全く異なります。

事業用資産、特に社長の経営する会社の株式の場合は、事業承継者にとっても重要な財産であり、これが事業に関わらない人に承継されると後年、経営上の障害になりかねません。

一方、会社経営がこれまで上手くいっていたとすると現在の株価は非常に高くなっていることが予想され、相続財産としての評価額も高額になり、事業承継者が会社の株式を相続した場合には相続税負担も非常に大きなものになります。

問題はこの会社の株式というものは上場会社の株式と違い、通常は売買できず、容易にお金には変えられないことにあります。一般的に市場に流通していない中小企業の株式を買おうと思う人は(M&Aなどを除けば)ほぼいないと考えるのが自然です。

しかし会社の株式も相続財産を構成する財産です。財産に占める自社の株式の割合が高い場合、そのすべてを事業承継者が相続するとなると他の法定相続人には「不公平な相続」と感じられることもあるようです。確かに単純に金額的に見れば一種の不公平さを覚えるのも感情的には無理もないかもしれません。

会社の株式は平時経営をしている分にはその価値が表に出てこないものですが、経営を円滑に進めるには絶対的に必要なものです。
経営を安定させるためには、まずは儲けを上げ続けること、お金を貯めることが必須です。その上でいざいざ会社が重要な局面に立った際、会社の株式を社長自身が持っていなければ自分の意見を通すことも困難になってきます。

もし経営者以外の他者が会社の株式を過半数持っていれば、社長の考えた通りの経営をすることができなくなるかもしれません。それでは儲けを上げ続けることは困難になってしまうでしょう。

従って株式の承継とその他の財産を並列に考えて相続を行い、株式の承継にも一種の平等を求めてしまうと、後年、事業を承継した経営者は大いに苦しむ可能性が出てきてしまうかもしれません。親が子供に平等にありたいと思う気持ちは誰しも持つものでしょう。
しかし子供は皆同じ子供だからと平等に相続財産を分けてしまうと、それが逆に喧嘩のタネになることもあるのです。事業承継をする相続人とそうでない相続人はしっかり分けて考えるのが、経済的な観点からすれば合理性のある行動といえるのではないでしょうか。

財産を渡す者が整えておくべき道筋

誤解して頂きたくないのは、事業承継する相続人が特別で、そうでない相続人は特別でない、というつもりは毛頭ないということです。ただ事業経営をされてきた社長であれば、会社を事業承継者にバトンタッチできたなら、その会社を将来にわたり安泰に経営をしていってほしい、と思うものではないでしょうか。

社長の財産を見たら、会社の株式以外にめぼしい財産がない、などということになれば相続人が複数いた場合には困ってしまいますが、実際に何十年経営をされて会社を成功に導いている社長であれば、会社の株式以外にも相応の財産を所有していらっしゃることと思います。

ですから事業承継に関わらない他の相続人には、それら別の財産を相続させてあげればいいのです。とはいえ、金額的には会社の株式の方が断然大きいということがあるかしれません。その時こそ、社長がお子様方に折り合いをつけてもらわなければなりません。どうして財産をあげる方がそんな苦労をしないとならないの、というお話もありますが、やはり親御さんでなければお子様を納得させることはできないように思います。

ただ、お子様も家族を持つようになるといろいろな関係者が増えてきますし、それぞれのお子様の置かれている環境も変わってきます。それでもやはり社長が常日頃からお子様方とコミュニケーションをとり、来たるべき将来に備えたお話はしておいた方が、一族の皆様のためになるのではないでしょうか。

こういうお話をすると「財産なんてない方が」なんていう冗談みたいな話になりますが、残す財産はたくさんあった方がいいに決まっています。これからの日本は今までと比較にならないくらい厳しい環境にさらされるのですから。

今回もメルマガにお付き合い頂きましてありがとうございました。