マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

社長の決断

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第89号] 社長の決断

2020年12月2日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の89】

『孤独な社長業』

成功と失敗は表裏であり、ときに紙一重でもある。
●社長の決断は成功して当たり前、赤字は悪
●結果に対する責任は全て社長が背負うもの
これら暗黙のプレッシャーが社長業には常に付き纏う。
未来志向たる社長のよき相談相手となり、この厳しい局面を乗り切りたい。
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月次監査で社長とお話させて頂いていると「社長というのは孤独なのだ」と感じることがあります。特に経営がうまくいっていない時であったり、事業承継につまずいている時などには、そう思うことが少なくありません。

おそらく社長にもご自身の考えを誰かに吐露したい、というお気持ちはあるかと思います。しかし経営のことを社員の方々に話したとしても、社長ほど経営について考えている社員はいるはずがありません。また相談ではなくただ聞いて欲しいと思っていても、その社員を不安に陥れてしまうかもしれないどころか社内に良くない噂が広まってしまう可能性があります。家族に対しても同じように不安を与えてしまうかもしれず、やはり話はできません。

こうなると経営や、経営を取り巻く繊細な話題について話をできる人というは社長の周りにはほとんどいないことになります。結局は一人で悩み、一人で結論を出すしかありません。社長の判断ひとつで会社の行く末が決まります。その結果がうまくいけば称賛されます。一方結果が悪ければ罵倒され、財産を失うことにもなるでしょう。結果の優劣ははっきりと出ます。儲かったのか、損をしたのか。その厳しい世界で決断を重ねるのが社長という職業だと思います。そこで顧問先様で実際にあったお話をさせて頂こうと思います。

新規事業進出への葛藤と決断

今から10年ほど前のことです。この顧問先様の社長は食品関係の卸売業に特化して商売をされていましたが、これからの時代は卸売業だけでは付加価値がつけにくいとお考えになり、加工食品を作る工場を作り、製造業に切り替えていくことを計画されました。

卸売業だけを営んでいた10年前の時点では、会社の経営は安定しておりました。その状況下での新規業態への進出です。工場建設となると土地の取得、そして工場建設費用もかかり、実行すれば財務状態が悪化するのは必至でした。社員のほとんどは工場建設に大反対。
しかし社長はこのままでは会社経営がじり貧になってしまうと考えていました。
加工食品はうまく行くはずだ、製造業への進出は不可避なのだという考えがある一方で、思い通りに工場が稼働しなかったらどうしよう、想定する売上を作れなかったらどうなるだろう、という懸念もあったに違いありません。決断に至るまでは新規事業の成否をぐるぐると頭の中で予測されたことでしょう。寝ても覚めても「工場建設は正しいのか」を考える毎日を過ごされたのだと思います。
会社のほとんどの人が反対する中、社長は決断し工場建設を進めました。結局、当初予想よりかなり予算オーバーでの工場建設になりました。もうやるしかない、「工場でやっていけるようにしよう!」とスローガンを掲げました。
時代は夫婦共働きとなり、手間をかけずに家族で食事をしたいというニーズが強まり、手軽な加工食品は売れました。結果として食品加工事業は卸売事業と同じ売上を上げるまで拡大しました。
一方、仕入についても大きな状況の変化がおきました。
かつては好きな部位だけを買えていたのですが、一頭買いを求められるようになったのです。
卸売業のみを続けていたら、この仕入の変化には対応できなかったでしょう。しかしこれも加工工場を展開していたおかげで無駄なく利用できるようになりました。
また食品加工事業は、卸売業につきものである原料相場も乱高下リスクの緩衝材となるメリットもありました。卸売業だけを展開していたらアウトだったと背筋も凍るような場面が幾度となくあったそうです。

成功という結果を常に求められる重圧

これも全て社長のご判断のたまものです。社長があのとき皆の意見を聞き入れて工場建設をしなかったならば、倒産とはなっていないものの、売上減少、利益率低下による利益の悪化により経営が苦しくなっていたことは火を見るよりも明らかです。

しかしもし結果が逆だったら「それみたことか、皆の言うことを聞かなかったからこうなったんだ」と言われていたでしょう。成功すれば拍手喝采、失敗すれば笑い者というのが経営者なのです。だからこそ経営者の判断というものは絶対的なものでしょうし、大筋での判断は絶対に間違えられないものです。失敗して自分が笑い者になるくらい受け入れられます。しかし社員やその家族、また経営者自身の家族に及ぼす影響を考えると、決定にかける緊張感は想像を絶するものに違いありません。
それを社長の皆様はよくわかっていらっしゃるからこそ、悩みに悩み、これが最善だと思われる道を選択し、実行されていることと思います。社長の悩みは社長自身にしかわからないことですし、最後は社長自身で決断し、結果責任を負わなければなりません。

しかしその過程において社長自身だけで悩まれるよりはまわりの意見や知識を取り入れられれば、より良い結果を得るためには良い場合があるかもしれません。

マエサワ税理士法人は、社長にとってよき相談者たれ、という考えのもと月次監査にあたっております。社長の経営上の悩みを共有し、社長のお気持ちを沿いながら、経済合理性に基づくご提案をしていかなければならないと考えております。

新型コロナウイルスも第三波が押し寄せてきており、経営にも難しいかじ取りを要求される局面が続きます。我々一人一人、そういった状況を理解した上で月次監査に臨んでまいりますのでどうぞ宜しくお願い致します。