マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

粗利益率を下げない努力

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第101号] 粗利益率を下げない努力

2021年5月19日 配信
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の101】

『稼げる企業であり続ける 』

商品にはライフサイクルがあり、時の経過に応じて段々と売れなくなるのが常である。

稼ぎが減った経営者は往々にして値引きに走るが、値引き戦略は体力勝負だ。
値引きにより当座の資金が回っても、値引きという行為自体がその商品の劣化を意味していることは自覚すべきだろう。

劣化した商品に拘る企業は劣化する。
たゆまぬ商品開発と粗利益率に対する常日頃からの高い意識を保って頂きたい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『粗利益率は低いよりも高い方がよい』という言葉に異論を唱える方はいないでしょう。しかし、少しの粗利益率を犠牲にすることで売上数量を大きく増加させることができそうなとき、その判断に迷われることがあるようです。

粗利益率の差は稼ぐ力の差

同じ1億円の粗利益を稼ぐにしても・・・
商品1個あたり2万円の売価、粗利益率50%、粗利益額1万円であれば1万個売れば達成できます。
商品1個あたり2万円の売価、粗利益率25%、粗利益額5千円であれば2万個売れば達成できます。

数字で言えばどちらも粗利益額1億円で結果は同じです。しかし経営戦略上は大きな違いがあります。粗利益率50%の商品価値と粗利益率25%の商品価値を比較すると稼ぐ力が倍違うわけです。

もちろん、売上は単価×数量ですから粗利益率が半分の商品でも倍の数量を販売できれば結果としての粗利益額は同じになります。

しかしそれはあくまで数学的な話であって、経営的に考えればどんな商品にもライフサイクルがあり、いずれは売れる数量にも陰りが見え始めます。そうなると商品に新たな付加価値をつけることで今までの粗利益率を維持しようとしたり、あるいは値引販売をして数量をたくさん売ろうと考えます。

どちらも経営判断ですから、その判断の成否は後の業績で明らかになります。しかし長い目で経営を見ていった場合に、特に中小企業の場合は、粗利益率の高い商品を持っている経営者のほうが健全経営を続けられる傾向にあるようです。値引販売は資金力があれば体力勝負を挑めますが、中小企業にはなかなか難しい注文です。

値引販売しているお店も巷に溢れています。新商品が出る直前で在庫一掃のためにセール等を実施するケースもあり一概に値引販売が悪い、ということはありません。ただ「値引販売をする時点で以前よりも商品力が劣っている」ということを経営者自身は認知すべきでしょう。

値引販売すれば一時的にはある程度の数量が売れる場合がありますし、今まで通り販売し続け、売上数量を激減させてしまうより、値引販売である程度の数量が掃ければ在庫減少と資金回収にもつながりますので経営上助かる部分もあります。

しかしながら値引販売している商品と別の、粗利益率のある程度取れる「新たな」商品群がなければ早晩じり貧の経営になってしまいます。

単純に「値引販売がダメ」ということではなく、「売れなくなったからといって盲目的に値引販売することは経営上危険である」ということです。値引販売にはその後の展開を見据えた戦略が不可欠なのです。

稼ぐ力を高めるには

付加価値をつけて粗利益率を維持しようとすることは非常に困難なことであります。粗利益の維持が肝要だと頭で理解していても常にそれを実行できる経営者はあまり多くありません。粗利益率を高めるための方策を考え、商品化し、実際に多くの方の手に取ってもらえる商品を創ること自体、なかなかできるものではありません。そういった商品を創り続けることで粗利益率の維持が実現できるのです。

粗利益率を高める努力は不断の努力であり、終わりがありません。経営者にとっては一生付きまとう課題と言えるでしょう。

ある飲食業の会議に出席させて頂いたときの話です。

「ひとつ330円の弁当を一日3000個、一日で約100万の売上。
これを30日間売れば月で約3000万円の売上になる。
粗利益率42%だとすると月に1260万円の粗利益額となる。」

一方で、
「ひとつ1000円の弁当を一日700個、一日で約70万の売上。
これを30日間売れば月で約2100万円の売上になる。
粗利益率60%だとすると1260万円の粗利益額となる。」

数字上、粗利益額は同じ1260万円になるがこれまで弁当を売ってきた経験から言えば、330円の弁当を3000個売るイメージは強烈にあるが、1000円の弁当を700個売るイメージは全く湧かない、という趣旨のお話を役員の方がされていました。

330円の弁当を買う人にターゲットを絞った弁当ですから、そこに1000円の弁当を開発して売っても700個は売れないと思います。そういうお客様に対して粗利益率42%の330円弁当を売ること自体に問題があるわけではないと思います。

この会議でも社長、会長がお話されていたのは、「我々は戦略として330円弁当を販売することにした訳でこれ自体に問題があると思っていない。ただし、粗利益率42%という現状に対してどのようにして0.1%でも今後上げていけるかは考えなければならない。例えば現状では野菜などはスーパーで買っているが、農家に掛け合い、もっと良いものをお互いが納得できる価格で購入できるか等を検討しなければならない。売る場所も事前にしっかりとしたマーケティングをすることで、売り出した後にこんなはずじゃなかった、なんてことがないようにもっともっと貪欲に粗利益率を上げていくことを考えなければならない。」ということを仰っていました。

前出の役員の方も
「330円弁当がすべてではないので、将来的には800円、1000円でしっかり粗利益率が取れ、なおかつ売れる商品も考えていく。」と仰っていました。

まだこのお客様の会社が設立間もない会社ということもあり、まずはとにかく儲けという答えを出すことが全てだというところは全員一致しており、なんとしても次の決算期では利益回答を出すという強い覚悟を感じられるものでした。

なかなかに稼ぎづらい現状で本当に安きに誰でも流れがちです。しかし与えられた経営環境下でもどうやって利益を出すか、考えられる経営者が生き残る可能性が高いのはこの会議を見ていても強く感じました。