マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

賃上げについての雑感

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第115号] 賃上げについての雑感

2021年12月1日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の115】

『強い企業になる 』

強い企業とは儲けられる企業をいう。
強い企業は資本主義で優位に立つことができ、商売の決定力を持つこととなる。

儲かるものが更に儲けられるのが資本主義だ。
一人当たり生産性の高い、儲けられる強い企業を目指して頂きたい。

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先日、11月25日の日本経済新聞に「賃上げ税制 実効性に壁」という記事が掲載されておりました。

賃上げした企業へ適用する優遇税制の制度設計について、過去類似の税制を導入しても効果が限定的だったと指摘があり、持続的な賃上げには企業の生産性向上が欠かせず、実効性のある制度作りは容易ではないとのことが記載されています。

確かにただでさえ生産性が上げられない企業が多い中で、賃上げした企業への優遇税制を設けたところで実効性を高めるのはなかなか難しいでしょう。

さらに記事中には「主要国と比べて日本の年収の伸びは鈍い」として主要国と日本の年収の伸びのグラフが掲載されていました。具体的には購買力平価ベース(20年米ドル換算)の実質で30年前と比べると、経済開発機構(OECD)平均は33%増の4.9万ドルだったのに対し、日本はたったの4%増の3.9万ドル(450万円)にとどまっていたのだそうです。

「賃金が上がらない背景にあるのは日本の生産性の低さにある。日本は主要7か国中最低が続いている。企業に付加価値を生み出す力が乏しく、人件費に回す余裕がない。」と、記事には書かれていました。

社会主義的な思考に陥っていないか

ある顧問先様の幹部会議で業績報告会をしていた時の話です。原材料がこれだけ高騰しているのだから売価に転嫁しないと自助努力だけではもはや吸収しきれなくなりますね、と私が話した際、営業部長から「そうはいっても、業界のNo.1の〇〇が値上げに動かないと、うちだけが勝手に値上げしたところでうちの商品が外されるだけで現実的ではないですよね。」という話がありました。

実際に値上げをすればこの営業部長のおっしゃる通りになるのだろうと思います。ただここに日本の社会主義的なマイナス面が表現されているように思えます。

日本ではバブル崩壊から30年物価は落ち着いており、結局大きな値上がりというものはほとんどなかったように思えます。そのため30年前と比べてたった4%しか年収が増加しなくともやってこられた面もあるのでしょう。

そこには要因がいくつかあってそのひとつに昭和時代に蓄積してきた経済力・金の力が挙げられます。これがあったおかげで平成の大不況下でも日本はやってこられたように感じます。

しかし令和に入った現在、日本と世界の相対的経済関係を見てみると、もはや昭和の後期のような力強さは日本にありません。中国の台頭をはじめとして、東南アジア諸国、インドなどのアジア各国が存在感を増してきており、アメリカも健在な中、日本だけは成長が止まっている状況です。

日本は国土も狭く山間部が多いので農業に不向きで、鉱物資源にも恵まれておりません。昭和の時代は国土の割に人口が非常に多く、若い労働者の割合が高かった。しかしそれも人口減少と人口高齢化で、現在は極めて厳しい状況といえます。

こういった中、あらゆる資源を世界各国とともに買い求めることになり、資金力の有無で必要資源を買い求められるかどうか決まってしまいます。これがまさに資本主義です。

資本主義的な思考を通せる強さを持つには

日本の一人当たり労働生産性はOECD加盟37か国中26位(2020年度)です。前述の通り、主要7か国中最低です。これでは必要とする資源を買い負けてしまうでしょう。こうなると今までは価格転嫁せずとも社員の給料を上げないことでなんとか事業を継続できていたものが、今後はあらゆる原材料高により価格転嫁せずにいられないはずで、それができなければ赤字幅が拡大し、市場から淘汰されてしまいます。ただし価格転嫁しても商品価値が価格に見合う程度になければ誰も買ってくれません。ですから価格転嫁しても買って頂けるだけの付加価値をつける不断の努力が今後ますます必要になってまいります。これが新商品、新製品の開発ということになります。

「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」(平成29年10月 経済産業省)によると、2016年度の大企業非製造業の従業員一人当たり付加価値額(=生産性)は1,327万円/年、同じく大企業製造業は1,320万円/年であるのに対し、中小企業製造業は582万円、中小企業非製造業は554万円/年となっております。

製造業をとっても非製造業をとっても中小企業は大企業の生産性の半分以下になっております。中小企業の一人当たり生産性が600万/年(50万/月)に満たない状況では賃上げは困難を極めます。

マエサワ担当者が顧問先様に伺った際には、一人当たり生産性の話が頻繁に出ていることと思いますが、改めて自社の一人当たり生産性を認識して頂きながら、この生産性向上の意識をさらに高めていく必要があるかと思います。

基本的には薄利多売よりも利益率を重視すること、つまり利益率を下げない経営が基本になってくるかと思います。日本経済は今後ますます厳しくなることが予想されます。そして全ての会社がその波を受けるでしょう。しかし、必ずその波を乗り越えられる会社があるはずです。顧問先企業の皆様とともに成功している企業として、マエサワ税理士法人も生き残っていきたいと思っております。