マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

なぜ税収が伸びたのか?

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第119号] なぜ税収が伸びたのか?

2022年1月26日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の119】

『成長停滞国家でどう儲けるか 』

今の日本経済は、GDP・生産性の低下、三次産業の増加、経営者の高齢化、赤字・廃業の増加等々、成長よりも衰退という言葉が似合ってしまう厳しい環境である。そのような状況下にあることを認識し、その上で我々はどのように儲けるか?を考えなければならない。

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本日は経営者として、そして税理士としても非常に気になる記事がありましたので取り上げさせていただきます。コロナ禍で多くの企業が経済的打撃を受けているにもかかわらず、一つ不思議な現象が起きていました。

失われた30年、そしてコロナによる停滞

昨年末の12月24日に内閣府が発表した2020年度の国民経済計算年次推計によると、国別の豊かさの目安となる1人当たり名目GDP(≒1人当たり生産性)は40,048ドル(約428万円)となり、経済協力開発機構(OECD)加盟38か国中19位だったそうです。

1人当たり名目GDPの上位には、ルクセンブルク、スイス、アイルランドといった人口の少ない国々が名を連ねており、5位アメリカ、13位ドイツ、18位イギリス、19位日本、20位フランス、21位イタリア、22位韓国と続いております。

日本の1人当たりGDPは粗付加価値(≒粗利益)を日本の総人口1億2千万人で割った数字であり、これが428万円/年/人ということです。つまり15歳未満の子供や65歳以上の方がすべて含まれているとした場合の話です。

2020年における日本の生産年齢人口(15歳以上64歳未満)はおよそ7,400万人ほどです。この生産年齢人口ベースで1人当たり生産性を引き直してみると、「428万円×1億2,000万人÷7,400万人=694万円」となります。

日本の労働分配率はおよそ70%程度です。これは1人当たり生産性(1人当たり粗付加価値)の70%が人件費だということです。つまり1人当たり生産性が694万円であれば694万円×70%=486万円が日本の労働者の平均的な一人当たり人件費ということになります。

この1人当たりの人件費が平成の30年間でほとんど上がってこなかったのが日本なのです。

一方、コロナ禍で非常に苦労されている企業が多い中、実は税収が伸びているという話があります。2020年度の税収実績が60.8兆円と過去最高を更新したということです。コロナ禍でどうして税収が伸びているのか、ピンとこなかったのですが・・・

ひとつの要因として消費税率の引き上げ(8%から10%)が挙げられます。2019年度の消費税収が18.4兆円だったのに対し、2020年度は21兆円となり、2.6兆円増加しました。

驚いたのは法人税収です。2019年度10.8兆円だったのに対し、2020年度は11.2兆円と0.4兆円増加しているのです。コロナ禍にかかわらず法人税収が伸びると予想した人はいないでしょう。法人税収が伸びるということは一般的に「経済が成長している」と考えるのが自然です。ところが名目GDPは2019年度から2020年度にかけて4%ほど落ちているそうです。GDPは国内総生産、付加価値の集合体ですから、経済成長と同義と考えてよいと思います。そのGDPが下がっているのに、法人税収は増加したのです。

成長なくして上がる税収はあるのか?

ヒントになるのが、日本の法人税収の構造にあります。法人税収の大きな部分が大企業に偏っています。270万法人のうち1万法人に過ぎない大企業が法人税収の大半を占めているのです。

中小企業であれば所得が出たとしても繰越欠損金がある限り所得と相殺されるので、法人税を納付することがありません。一方で大企業には繰越欠損金の使用制限があります。所得が生じると中小企業よりも法人税の納税が発生しやすいのです。

今回のコロナ禍は製造業よりも非製造業で打撃を受けているところが多いようです。大企業の製造業が国内産業をけん引して、あるいは輸出を積極展開することで黒字幅を大幅に拡大させることで所得を創出し、納税額が増加しました。コロナ禍にかかわらず過去最高益を上げている大企業も少なくありません。

ちなみに、この国の中小企業は7割が赤字です。しかし、マエサワ税理士法人の顧問先様を見ると、およそ7割が黒字です。これはとてもすごいことです。マエサワ税理士法人がそういった顧問先様とともに仕事をできていることには感謝しかありません。

話を戻します。この国の一般的な中小企業は7割赤字です。GDPを算出する際には付加価値がマイナスになればそれはマイナスとして評価します。単純にプラスよりマイナスが多かったので2019年度と2020年度のGDPを比較すると、2020年度は4%ほど減少しているのです。

一方で法人税収を考えると、赤字企業がどれだけ赤字を作ってしまったとしても法人税の納税はゼロです。マイナスだからといって国から法人税がもらえるなんてことはありません。前期に法人税を納税しており、当期赤字になってしまった際に前期納税した法人税を取り戻すことができる「繰越欠損金の繰戻還付」という制度はございますが、これは例外です。

結論として経済の成長はプラスにもマイナスにも振れるので、プラス効果とマイナス効果が相殺されますが、法人税収を考えると納税すれば納税額が増える一方で、赤字の場合は納税がゼロより少なくなることはないので、結果として経済成長がマイナス、つまりGDPがマイナス成長しても、法人税収が伸びることはあり得るのです。

「経済はマイナス成長でも法人税収が伸びる」という違和感のある現象の正体は、大企業を中心とした所得の増加と中小企業の赤字幅の増大という中で起きた現象です。しかしながら中小企業も儲けを出すことで黒字化、黒字の継続化を図っていかなくてはなりません。そのためにマエサワ税理士法人職員一同も顧問先様の経営の一助となるべくやってまいりますので引き続き、宜しくお願い致します。