マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

数字に対する感覚を研ぎ澄ます

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第153号] 数字に対する感覚を研ぎ澄ます

2023年5月17日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の153】

『経営に対する姿勢を正す』

自社の試算表を読みながら、数字をぼんやりと数字としてしか見ていないことはないだろうか。
会社の数字は経営の結果であり、その裏側は自身の経営そのものである。
一つ一つの数字と真剣に向き合うことは、口にする以上にとても大切なことだろう。

何か社会と、人とズレてしまっているとき、往々にして会社は儲からない。
そういった歪みも数字には表れるものだと肝に銘じたい。

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先日、ある顧問先の社長から「いつもマエサワのメールマガジンを読ませてもらっているよ。文字ばかりだけど読みやすいよ。」というお言葉を頂きました。こうしたご意見を頂くと、「少しはお役に立てているのかもしれない。これからも私の信じるところを書き続けていこう」という勇気が湧いてきます。

この社長からは「メールマガジンに掲載される内容は成功事例ばかりで失敗事例が出ることはほとんどないので、是非とも失敗事例を掲載して欲しい」というお言葉もいただきました。

私がこのメールマガジンで心掛けていることのひとつに、「会社、社長の悪口に聞こえるような表現はしないこと」がございます。

この社長のおっしゃる通り、失敗事例から学ぶことは非常に多くあります。むしろ成功事例よりも失敗事例の方が役に立つことも間々ございます。マエサワの顧問先の皆様に役に立つ情報をご提供するためにメールマガジンを書いている以上、失敗事例も掲載したいという気持ちはございます。しかしそれはそれで難しいところがあります・・・

前置きが少し長くなりました。本日はある顧問先様の会長と社長の数字に対する鋭さを改めて思い知った事例を紹介させていただきます。

経営者の見えている数字の世界

この顧問先様は5つの部門から構成され、年間売上高40億円弱の会社です。全社レベルの月次推移表はありますが、経営報告会ではむしろ部門ごとに月次損益について検討をしていくことが多くなります。

朝、我々が訪問した時点における、令和5年4月の各部門長の経常利益ベースでの予測の合計額は800万ほどでした。「おそらく1000万円前後はあるはずなんだよ、なにか見落としているかもしれない」と社長はおっしゃいます。
そしてその後、我々が1日がかりで数字をチェックしてみると経常利益はなんと983万円でした。

この社長は、簿記の知識があるわけでもなく、また現場に張り付いてひとつひとつの業務を見ているわけでも、請求書1枚ずつ金額を確認している訳でもありません。

それでも人の動きや残業の多寡、仕入れの単価の動向、量の多寡、そして売上の状況を俯瞰してみたところで1000万という数字をはじき出した訳です。一方で各部門長はというとひと月分の売上の積上げを計算し、仕入れの金額を請求書ベースで確認し、人件費も経理に確認し、間接費については前月までの数字を参考に予想経常利益を算出しています。一見、部門長の方が細かく数字を見ているようで、結果としては社長の感覚の方が正解に近くなっています。

ではなぜ社長は予測を的中できたのでしょうか。

部門長が大きく外している数字がありました。それは「間接費」です。間接費は各部門で直接的にかかる経費ではないので、確かに予想するのが難しいところがあります。それでも社長がそれも当てられるのは、誰よりも数字に興味を持って、俯瞰して人の流れ、働き方、製品の生産量などをつぶさに見ているからです。経営は儲けという結果を出さなければ意味がないですから、数字にはいくら興味を持っても持ちすぎということはないと思います。

儲けるためにも数字により敏感になること

さきほど「この会社の令和5年4月の単月経常利益は983万円でした」と述べましたが、夕方の一次締めの段階では経常利益は200万円でした。

この一次締め集計表を見て、「〇〇部の在庫金額が異常に小さいからこれを確認して」と言われたのは、この会社の会長でした。そう言われれば確かにそうだ、と私でもわかります。社長からは朝の時点で1000万程度の経常利益が出そうだと伺っていたので、200万円程度の経常利益しか出ていないことに疑念は抱いておりました。ただどこがおかしいかについてこの時点では気づけませんでした。会長の言葉通り、棚卸に約700万円の集計ミスがあり、結果として経常利益は983万円となりました。

それがものの数分というより1分も経たないうちに会長から指摘を受けたわけです。会長は「間違っている数字は浮き出て見えるもんだ」ということを仰っていました。おそらく大げさでもなんでもなく、常に数字を真剣に見てこられている証なのだろうと思います。と同時に聞けばそうだよね、といえるような間違いに自分が気づくことのできなかった悔しさは非常に大きいものがあります。

我々は顧問先様の事業そのものにはタッチできませんが、数字は共有して見ていくことができます。数字だけでなく、数字の裏に隠れている日々の経営の積み重ねの部分についても感覚を研ぎ澄ましていかなければ、顧問先様の儲けのお手伝いなどは到底できないと猛省した出来事でした。

経営者としては売上を創る、仕事を創るというのが最も大事なことではあると思いますが、儲けるためには数字に対する鋭敏さも必須だと思います。マエサワ税理士法人も職員一人一人がそのことを強く意識し、顧問先様と成長してまいる所存ですので、どうぞ宜しくお願い致します。