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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」
[第181号] 経営者がなすべきこと
2024年6月12日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の181】
『より儲けられるよう同じ方向を向いてもらう』
自社の商品・サービスの価値とその値付けに関しては、顧客への訴求はもちろん、社員へもきちんと理解してもらいたい事柄だ。社員には自信をもって商品・サービスを売ってもらいたく、なにより経営者と近い目線に立って物を考え、行動してもらいたいからである。
たとえ信頼関係があったとしても、自分の考えを相手に腹落ちして理解してもらうというのは簡単なことではない。丁寧に、そして根気強く伝え続けていきたい。
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このメールマガジンにたびたび登場して頂いている顧問先様がございます。この顧問先様は極めて真面目な会社であるにもかかわらず、組織や外部対応をその時の状況に応じて変化させており、そんな姿に私自身非常に感銘を受けております。
事業経営されている社長の皆様にも私と同じように響く部分があればと考え、今回もその顧問先様のお話をさせていただきます。
大健闘した新年度スタートに抱く社長の懸念
この会社は4月決算であり、先日月次監査で伺った際に決算業務を行い、昨年度の会計を締めたところです。40億弱の売上に対しほぼ2億の税引前利益が出ておりました。この会社は相場物の商品を扱っております。そして昨年の相場は高止まりし、経営環境としては厳しかったにもかかわらず、数字的にも事業内容的にもよい業績を残すことができました。
そんな状況で迎えた新年度最初の5月の月次監査でした。社長は昨年度も含めたこの3年間は確実な売上と利益を確保していくことを第一とするため、予算は昨年度実績とそう変わらない数字を計画値としています。
5月の業績は・・・
5月の相場は12か月の中でも1、2を争う相場高の月であり、毎年5月はかなり苦戦しておりました。ところが昨年5月はそんな中でもしっかりした利益を残しておりました。そして今期の5月も見事に昨年度同様の利益を残すことができました。
この数字を見てすごい会社になってきた、と感じました。今年の5月も相場高だったのは間違いないからです。しかも前期の5月と比較して10%増しの価格でした。この7~8年の5月の業績と比較しても圧倒的な相場高でした。にもかかわらずこの利益ですから、本当に素晴らしい業績だと感じました。
ところがです。会議の冒頭、社長が「今日は皆さんにじっくり話したいことがある」と含みのある言い方をされました。社長がこうおっしゃるときは実際に社長の考えをしっかり幹部の皆さんに確実にお伝えしたい時です。その時点では私は素晴らしい業績だと感じていたので、どんな内容の話をされるのか非常に気になりました。
先を見通し、それを伝える力
社長はこんな話をされました。
「5月の数字がある程度行くことはわかっていました。なぜなら2月から4月にかけて、5月から7月の売上を作るための施策をきちんと打っていたからです。その効果が出れば当然、それなりに業績はついて来るものです。だから不思議でもなんでもない。」
「問題は第1四半期以降です。8月以降については今のところ何も準備していない。しかも昨年対比で従業員数は増加し、人件費が増加しています。5月における一人当たり生産性も昨年対比で数字を落としております。このまま改善策を打たずに月日が過ぎていけば、予算の数字は間違いなく達成できないでしょう。」
「まずは人を効率的に動かせていない部署があるのでこれをなんとかしなければなりません。ここの手当が重要です。もうひとつは今のタイミングで営業が新規顧客を取ってくるのはご法度です。今は既にキャパいっぱいの生産となっており、ここで新規顧客の商品を入れてしまえば、ラインがパンクしてしまいます。今営業がやるべきは新規顧客を取ってくることではなく、売上増加のためには既存顧客から増量の注文をとってくることです。」
商品が変わるたびに機械の洗浄等に相当な時間を取られます。もし1日に新規商品を生産することになれば、1日に数回のライン洗浄が行われることになります。これでは生産性がガタ落ちする上、相当時間の残業が発生することになり、結果としてさほど儲けに繋がらない、という働けど稼げずの状況になります。だから今は新規顧客の開拓ではなく、既存顧客からの増量注文がよいということになるとおっしゃっているのです。
話を聞けばその通り、となりますが、ここまで個別具体的な指示、そしてそうしなければならない根拠を的確にお話しできる社長が世にどれほどいらっしゃるでしょうか。この会社はまだまだこれから伸びていくことができると強く感じた瞬間でした。
この社長がすごいのは、「売上を増やそうと思えば今すぐにでも増やすことはできる。でもこの会社は今、その時期にあらず。今はしっかりした利益を出しながら、携わる人のレベルを成長させる時期だ。」とおっしゃって、目まぐるしく人事異動を行い、多能工化を図り、ひとりが様々な仕事をできるように育てているところです。
人事異動が行われ始めた当初は、社内に「人事異動=左遷」というイメージがありました。抵抗もありましたし、会社を去られた方もいたように思います。しかし現在では、人事異動は左遷ではなく、自らを成長させるためのもので、活躍次第で役職も上がり、給与もよくなるものなのだという共通認識が会社に生まれています。従業員の多くが、人事異動により会社が活性化している実感をお持ちなのでしょう。以前から会社の雰囲気は悪くはなかったのですが、より良くなっているのを私も感じております。
まさにこれぞトップが社員に表すべき姿勢だと感じます。根本の考えがしっかりしていないと経営がぶれてしまいますが、その考えを幹部の皆様に落とし込み、さらにその下部にいる方々に具体的な行動をいかに示していくかが重要であります。
こうした素晴らしい経営を私自身も吸収していきたいと思います。ひとつの事例として皆様の経営を考える際の一助になれば幸いです。