マエサワ税理士法人公式メールマガジン前沢寿博の「企業経営の王道」

在庫をどのように管理されていますか? 

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マエサワ税理士法人
前沢寿博の「企業経営の王道」

[第184号] 在庫をどのように管理されていますか? 

2024年7月24日 配信
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【マエサワ税理士法人 経営の哲学 其の184】

『儲けるために取るべき姿勢』

より儲けようと増やした在庫が、結果に繋がるならば何も言うことはない。問題は「仕方ない」という理由で増えてしまう在庫、業績をごまかすために嘘に使われた在庫だろう。
多くの会社で大なり小なりこの問題は起きがちだが、この頭の部分が崩れると業績の何を議論しても中身が伴わない話となってしまう。
売上や原価と違い、社員の意識が雑になりやすいのが在庫だ。トップである社長が改めて在庫に対する考え方を共有し、儲けるための行動となっているのかの手綱を握って頂きたい。

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マエサワ税理士法人では、毎週月曜日の午前中に会長の前沢による所内研修がございます。研修の題材は多岐に渡りますが、一言で言えば「我々が経営者の儲けのお手伝いをする上で必須の考え方を学ぶ」ということになりますでしょうか。今回の研修の題材は「在庫」でした。

在庫はお金であり、儲けるチャンスでもある

この研修でも頻繁に取り上げられる方の一人に、一倉定という先生がいらっしゃいます。経営実学で著名な先生ですのでご存じの方も多いのではないでしょうか。その一倉先生の言葉の中に、「在庫が危険なのではない。在庫に対する考え方がないのが危険なのである。」というものがございます。

一般的に「在庫」はお金が商品や製品に化けているだけで、在庫はお金そのものだと言われます。私もまさにそうだと思いますので、社長とお話する際にもお金が在庫として寝ていてもしょうがないので、早めに在庫を掃いて資金化しましょう、というお話をすることがございます。

一倉定先生は著書で「在庫恐怖症にかかると、ただ、やみくもに在庫節減するようになってしまう。特に、経理担当者と社長が重症になる。困ったことには、経理担当者は在庫節減こそ、会社の利益増大法だと思いこんでいる。それ以外のことは何も知らないからだ。ここに危険が伏在する。如何に有効な販売促進も、経理の「それは金利が高くなります」の一言でつぶれてしまうのだ。「いくら金利が高くなるか」ということは計算せずに、である。」

「これは、経理担当者が悪いのではなくて、在庫の正しい考え方を勉強しようとしない社長に全責任がある。在庫の正しい認識のないままに、ただやみくもに在庫節減をしようとする。だから、在庫を減らすシステムが開発されたと聞くと、無批判にこれに飛びついて売上不振という大やけどをすることになる。」

皆様、一倉先生の言葉にどのような感想をお持ちになるでしょうか。

現在の借入金利は優良企業であれば1%を切っていますが、当時は10%に近い金利だったはずです。在庫を増やすために借入をすれば、その金利の影響は今の比ではないほど大きかったのは事実ですが、それでもその金利以上に粗利益率があれば金利問題はそれほど大きくありません。

そういう意味で「金利が高い」=借入はだめ=在庫を増やすのは悪という短絡的な考えを当時の社長が持っていればビジネスチャンスをつかみ損ねることもあったのでしょう。まさに思考停止状態です。

在庫への姿勢から見えてくる自社の問題

ある顧問先社長(この方の経営手腕もかなりのものです)は、在庫について次のように語っています。
「(自分が社長に復帰したときには)冷蔵庫は整理整頓されておらず、仕入れたものがただ入れてあるだけ。注文の都度、1300アイテムの中から探し出している。これではダメだと思い、すぐに実地棚卸をやらせ、売れない、賞味期限切れの在庫を全て廃棄させた。」

その結果、「当社のサービス、商品、価格を理解してくれない人には売らない。細かすぎる注文、デリバリー地域から外れている客は値上げをし、儲からない客を切り、1300アイテムあったものが700アイテムまで減少。倉庫の整理整頓が進み、有利な仕入ができるようになった。」そうです。

単純に売上金額に対する在庫金額の比率が高いからだめだとかいう話ではございません。様々な種類の商品が置いてあること、あるいは他社では扱っていない古い部品が置いてあることで顧客の信頼を得ている会社もありますし、不動産業を営む会社であれば土地が高いからといって土地を持っていなければ売るチャンスすらありません。

在庫金額だけでなく、在庫の内容、在庫の数量、実地棚卸の状況、倉庫の整理状況などを見れば、我々でも社長が経営者として在庫に対してどんなお考えをお持ちなのか想像することができます。儲かりやすい経営なのかそうでない経営なのかを見定めるひとつの指標と言えるほどです。

もちろん在庫金額が増えるということはお金を寝かせることになるので資金繰りを圧迫しがちなのは事実だと思います。しかし儲けを取るためのリスクであり、そのリスクをどこまで取るかは経営者によって違います。

ある新規顧問先様のところへ伺うと、社長交代後間もない新社長が「実は簿外になっている在庫が2,3千万あるかもしれない」とおっしゃいました。簿外在庫には税務リスクがございます。本来は在庫計上すべきなのに過去に原価で落ちているので当然の話です。

そこでこの件について現場担当者にお話を伺いました。すると「この10年でほぼ全くといっていいほど簿外在庫が売れた実績はない。現場は場所を取るだけの不良在庫をさっさと廃棄したいと考えている」ということでした。新社長は前社長からの引継ぎで簿外資産の存在とその価額だけ聞いていただけで、現在も簿外在庫は価値あるものだという認識だったそうです。

この在庫は、取り扱うことになった経緯に歴史があり、前社長にとっては思い入れのあるものであったようですが、今となっては残念ながら売り物にはならない、ということでした。この在庫は早晩廃棄することになりそうです。

実地棚卸は、ただ数を数えるものではありません。やるべきことをやるべき時にやるべき人がしっかり動いているかどうか把握する非常に大事なイベントです。上場会社ですら丸一日の業務を止め、1日分の生産を止めてまで実地棚卸をやっています。是非とも棚卸を大事にしたいものです。